医療に関する令和2年度税制改正要望とは?
※最終更新日2020年4月30日 全体像を見えやすくするためにQ 31と合体して整理し直しました。
毎年行われる税制改正。お客様からは「毎年変わって、勉強大変だね」と言われます。
基本があれば、「枝葉」が変わるだけですから、特に大変ではありません。
ただ、制度の概要が決まっただけで、実務レベルでの適用がはっきりしないケースも多々ありまして、お客様へのご説明に苦慮することもあります。
税制改正には、病院やクリニックにとって、ピンチとなるものもあれば、チャンスとなるものもあります。
まずはいち早く情報を仕入れて、ピンチに備え、チャンスを活かすために分析しておくことが重要です。
ということで、今回は今年の12月に発表される「令和2年度の税制改正」について、厚労省から出ている「改正の要望」について解説していきます。
※この記事は次の人にオススメです。
・税制改正の要望を通じて、厚生省の医療政策を確認しておきたい人
主だったものは5つ
医療関係は、次の5つを見ていきましょう。
(1)事業承継関係
①医師少数区域等における医療法人の承継税制の創設(相続税・贈与税)
②基金拠出型医療法人における負担軽減装置の創設(所得税・個人住民税)
③相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長(相続税・贈与税)
(2)医療制度関係
④医師少数区域等に所在する医療機関への税制上の優遇措置の創設(不動産取得税・固定資産税)
⑤地域医療構想実現に向けた税制上の優遇措置の創設(不動産取得税・固定資産税)
医師少数区域等における医療法人の承継税制の創設(相続税・贈与税)
医療界に限らずですが、後継者不足に悩む中小企業はたくさんいて、社会問題になっています。
それが医師少数区域だったらどうなるでしょうか?当然、地域住民に大きな影響を及ぼします。
そこで通常、認定医療法人制度を利用して事業承継する場合、申請から3年以内に移行しなければならないという縛りがあります。
その縛りをなくして、長期間の時間的な猶予を与えることで、後継者を探したり、対策を立てたり、より確実に事業承継ができるようにサポートする制度の創設を要望しています。
これにより、医師少数区域でも事業承継がしやすくなれば、地域住民の皆様にとっても良いことだと思います。
※認定医療法人制度については、過去の記事をご覧ください。
「Q23 認定医療法人制度を活用しての持分なしへの移行はアリか?」
基金拠出型医療法人における負担軽減装置の創設(所得税・個人住民税)
医療法人の事業承継対策として、今国は「持分なしの医療法人」への移行を推進しています。
ただし、移行に仕方によっては医療法人からの「配当」が生じることとなり、所得税や個人住民税が大きく課税されるケースも出てきます。
そこで、税負担によって移行が滞ることがないよう、その配当に関わる税金の納税を猶予しようという制度の創設を要望しています。
これにより、国が推進する「持分なしの医療法人」への移行がしやすくなれば、移行を検討する医療法人にとっては良い話になると思います。
事業承継関係の方に区分けしましたが、国が進めたい制度のバックアップですので、医療制度関係とも言える内容です。
※持分なしの医療法人については、下記の記事をご覧ください。
相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長(相続税・贈与税)
これは従来からある制度が適用期限を迎えますので、その制度の延長を求めるものです。
認定医療法人制度を利用して「持分のない医療法人」へ移行すれば、相続税と贈与税を免除するものですが、この制度を受ける医療法人が増えていること、かつ、それでもまだ大多数は「持分のない医療法人」であることを鑑みて、この制度の延長を求めています。
逆を言いますと、現状では、この制度の申請自体は、令和2年9月30日までとなっています。
適用をお考えの方は、まずは令和2年9月30日までのつもりで、緊急性を高めて検討してみてください。
医師少数区域等に所在する医療機関への税制上の優遇措置の創設(不動産取得税・固定資産税)
同じテーマで前回は医師少数区域等の事業承継が要望として上がっていました。
医師少数区域等では事業承継がうまくできないと地域住民に大きな影響を及ぼすため、より承継しやすくしようというものでした。
これは、医師少数区域等で勤務する医師を増やす目的で、「6ヶ月以上勤務」などの一定の要件を満たした医師を厚生労働省が認定します。
そして、その認定された医師が一定数勤務する病院(または認定された医師が管理する診療所)においては、地域医療に必要な医療機器・土地建物を取得・増改築した場合の不動産取得税や固定資産税を減免する制度です。
これにより、認定を受けた医師やその医師が在籍する病院に経済的なメリットが発生するため、医師少数区域等での勤務が増えていく可能性があり、当該地域の住民の皆様や病院にとっては良い話です。
地域医療構想実現に向けた税制上の優遇措置の創設(不動産取得税・固定資産税)
これは地域における病床の再編や機能分化、連携を支援する目的で創設の要望が出ています。
昨年の税制改正(「Q19 平成31年度の税制改正のうち、病院・クリニックが注意すべきポイントは?」をご参照ください)においても、地域医療構想実現に向けての病床再編に伴う改正がありましたが、法人税・所得税を対象にしたものでした。
今回もその流れを汲んでいまして、地域医療構想調整会議において合意した方針に基づいて新たに取得することになった土地・建物については、不動産取得税や固定資産税を減免しようというものです。
その経済的な負担を減免によって解消することにより、地域医療構想が推進しやすくする狙いがあります。
確かに、病床の削減などによって必要となる不動産関係の支出は、かなり大きな金額になると思います。
こうした制度で不動産取得税や固定資産税が減免されたり、昨年の制度で法人税や所得税について特別償却が適用できたりということで、少しでも経済的な負担を減らすことができれば良いと思います。
まとめ
税制改正の要望には、今の医療界の問題点、そして国はどのように対応・改善していこうとしているのかということがはっきり表れます。
実際に改正点として決まってから勉強するのではなく、こうした要望レベルから勉強することで業界の流れが見えてきます。
こうした業界の流れを事前に汲みながら、医療経営を進めていきたいですね!