平成31年度の税制改正、病院・クリニックが注意すべきは?

 

最終更新日:2020年6月2日 全体像を見やすくするために、Q 20と統合して再編成しました。

「うちのクリニックも増税になりそうですね」

少し前になりますが、昨年末の税制改正について、お客様からこうしたご相談がありました。

結局のところ、「医療機関には影響ない」という結論だったのですが、同じようなことがあると思います。

そこで今回は、病院・クリニックの立場から、平成31年度の税制改正のうち、直接影響しそうな部分のみ、解説していこうと思います。

※この記事は次の人にオススメです。

税制改正のうち、医療機関に影響するもののみ、効率的に把握したい人

全体感

今回のメインは、医療機関限定の特別償却3本でしょう。

全体としては小粒で、良くも悪くも影響は少ないと思います。

「生産性の向上」「人づくり」「地方創生」といったところが、テーマになってます。

メイン以外は、大枠で下記を押さえておけば、問題ありません。

(1)住宅ローン控除

(2)相続空き家の特別控除

(3)出国の場合のNISA口座の取り扱い

(4)マイナンバーの連携強化

これら以外にもニュースで話題になったふるさと納税(返礼品を地場産品とする・返礼割合を3割以下にする)や、試験研究費の改正、特別法人事業税の創設・法人事業税の税率引き下げなどもありますが、いずれも、ニュースで話題になったものや実務上影響のないもの(少ないもの)ですので、よろしいかと思います。

住宅ローン控除

消費税10%の駆け込み需要をなくすための改正です。

「従来の10年間の控除を過ぎても、増えた2%をその後の3年間で考慮するよ」というものです。

10年を経過しても、引き続き、ローン控除が受けられるというものです。

住宅ローンの年末残高(4000万円限度)×1%

住宅の取得対価(税抜)(4000万円限度)×2%÷3

いずれか少ない金額

ただし、理事長先生や院長先生であれば、所得制限に引っかかり、ローン控除の適用自体、受けれていない先生が多いと思います。

相続空き家の特別控除

相続で親が住んでいた土地・家屋を取得した場合に、そのまま空き家になるケースが多いため、「売却益を3000万円まで非課税にするから売ってね」というものです。

もともとあった制度ですが、「親が住んでいた家屋」という要件があり、老人ホームへ入居した場合には、住んでいたことにならなくなり、適用ができませんでした。

空き家になる理由の15%は老人ホームへの入居だそうで、今回の改正で老人ホームへ入居する場合も要件を満たすことになります。

S56年5/31以前に建築された家屋(=マンションは対象外)

被相続人の専用の居住用家屋

相続開始日から3年を経過する日の年末までに譲渡(=いつまでも所有していてはいけない)

売却価格が1億円以下

空き家対策であれば、要件は緩和した方が効果が出ると思うのですが、現状は要件が多いので注意が必要です。

出国の場合のNISA口座の取り扱い

従来、出国をする場合には、NISA口座は課税口座へ払い出されることになります。

今回の改正により、帰国まで(最長5年)、非課税口座が維持されることになります。

病院の理事長先生や院長先生が出国するケースはまれかと思いますが、自分の資産を自分で運用する時代ですので、使いやすくなることは良いことかと思います。

マイナンバーの連携強化

証券保管振替機構(ほふり)はマイナンバー情報を住基ネットから取得し、各証券会社に提供できるようになります。

そして、証券会社のみならず、国税などにも情報提供されることになります。

証券関係はマイナンバーを通じて、すべてオープンになる見通しです。

株式投資をする先生は要注意です。

施行は令和2年4月1日を予定していますので、近づきましたら、改めて情報をチェックするようにしてください。

ちなみに、預金口座はまだ連携していません。

 

ここまで見てきたように、住宅ローン・相続による空き家の取得・出国によるNISA口座など、かなりシチュエーションが限定されます。

関係がないようでしたら、スルーして頂いてOKです。

今年は消費税の増税がメインでしたので、全体的に軽い感じの改正になりました。

ただし、下記の医療機関向けの特別償却はしっかり押さえておきましょう。

医療機関向けの特別償却

いわゆる「消費税の損税問題」に対応する施策として、3つの特別償却が制定されました。

※消費税の損税問題については、こちらの記事をご覧ください。

Q1 医療機関の損税はどう対策すればよいか?

(1)医療機器の特別償却の見直し(特別償却12%)

(2)医療現場での働き方改革(特別償却15%)

(3)地域医療構想に適合する病院用建物等の取得等(特別償却8%)

この3つをひとつずつ見ていきましょう。

医療機器の特別償却の見直し【特別償却12%】

従前よりある制度ですが、病院のCTおよびMRIについて、共同利用や配置の効率化を促す目的が追加されました。

CTやMRIを各病院が自由に持ち、使用するのではなく、都道府県の確認のもと、共同利用や適正配置を評価するものです。

対象患者数が少なく、有効に使用できていない病院もある中で、診療報酬の高いこれらの検査が2重にならないようにしたいという狙いがあると思われます。

医療現場での働き方改革【特別償却15%】

何かと問題視される医療現場の労働環境ですが、働き方改革の推進を後押しするものです。

勤務時間を短縮させるような器具備品やソフトウェアを導入した場合に、特別償却15%の適用を受けることができます。

具体的には、勤怠管理システムなどが該当すると思われます。

ただし、勤務時間を短縮させることを自己判断するのではなく、医療勤務環境改善支援センターで計画書を作り、都道府県の確認を受けなければなりません。

地域医療構想に適合する病院用建物等の取得等【特別償却8%】

地域医療構想に伴う病床再編を後押しする目的で、地域医療構想調整会議の協議に基づき病床数が増減する場合には、特別償却8%を認めるものです。

地域医療構想調整会議に基づき、新たに取得や改修などが必要になる場合が想定されます。

それを税金の方で考慮するもので、病院のみならず、診療所でもOKです。

上記2つに比べて、とても大きな金額となることが見込まれますので、割合も8%と少なめです。

そして、これもまた、最終的に都道府県の確認を受ける必要があります。

まとめ

この3つは「医療機関の損税問題」に対応する目的で制定されました。

診療報酬による補填だけでは、こうした大きなお金が動く、設備投資の際に補填しきれない恐れがあるためです。

そこで、「高額な医療機器の共同利用や配置の効率化」「働き方改革の推進」「地域医療構想の推進」という医療界として進めていきたい問題と併せた改正となっていると思います。

ただし、特別償却はいわゆる経費を増やしてくれるものであるため、その事業年度の税金を減らしてくれますが、そもそも赤字の病院には関係のない話です。

また、償却率も8%〜15%と低く、病院の経営層とお話をしていてもあまり魅力は感じていないようでした。

今回の改正で、医療界の進むべき方向が改めて明示されたと考えておくことが大切だと思います。