医療法人の決算書の閲覧制度をどう生かすのか?

 

こんにちは。

「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。

「あそこの医療法人、どんな業績なんだろう」

そんなことが気になる先生もいらっしゃるかと思います。

そんな時に使える制度が「閲覧制度」です。

そこで、今回は医療法人の閲覧制度について解説していきます。

※この記事は次の人にオススメです。

医療法人の閲覧制度を使って、気になる医療法人の業績などを確認したい人

医療法人の閲覧

医療法人は毎期決算後3ヶ月以内に、事業報告書等を管轄する都道府県宛に提出しなければなりません。

事業報告書等というは、下記の書類を指します。

(1)事業報告書

医療法人の概要や設立日、附帯業務や収益業務などが分かります。

とはいえ、HP上でこうした情報を公開している医療機関がほとんどかと思いますので、そちらで確認が取れる内容です。

(2)財産目録

下記貸借対照表の概略が分かります。意外と情報源となるのが、目録の下に記載する「土地・建物」が自前であるか、賃貸であるかという項目です。

下記の貸借対照表や損益計算書の内容を推測するのに役立ちます。

例えば、自前であれば貸借対照表の「有形固定資産」が大きくなります。

賃貸であれば保証金があるため、貸借対照表の「その他の資産」が大きくなります。

損益計算書の方は、自前であれば建物の減価償却費が、賃貸であれば地代家賃が「事業費用」に含まれていることになります。

(3)貸借対照表

各区分の合計金額が記載されているため、勘定科目ごとの内訳は分かりません。

そのため、財務分析をすることをオススメします。

まずは、短期的な資金繰りを見る「流動比率」

※流動比率は過去の記事を参考にしてください。

Q51 病院経営やクリニック経営の安全性はどう判断するか?〜流動比率〜

次に、設備投資の状況を見る「固定長期適合率」

※固定長期適合率は過去の記事を参考にしてください。

Q52 病院やクリニックの設備投資の可否に使う〜固定長期適合率〜

こうした財務分析をすることで、対象医療法人の実情が見えてきます。

もちろん、専門家に分析を依頼するのもOKです。

(4)損益計算書

こちらも各区分ごとの合計が記載されているため、各勘定科目ごとの金額は分かりません。

ここでも財務分析が役に立ちます。

まずは、「経常利益率」

※経常利益率については、こちらをご覧ください。

Q48 病院やクリニックの財務分析で大切な収益性とは?

そして、貸借対照表の固定負債を「経常利益から法人税等を控除した金額」で割ることで、利益の何年分の固定負債を抱えているかを把握することができます。

正確には、減価償却費を考慮する必要がありますが、概ねの数字を出すことができます。

(5)関係事業者との取引の状況に関する報告書

MS法人や親族との大きな取引が記載されています。

気を付けなければならないのは、記載には金額的なラインが設けられているため、「該当なし」と記載があってもMS法人等との取引がないわけでは限りません。

※金額的なラインについては、過去の記事をご覧ください。

Q98 MS法人は節税に使えるのか?メリットや規制について

(6)監事監査報告書

ここに記載されている文章自体は、モデル文章通りである場合がほとんどで、どの医療法人も同じような文章です。

 

6種類の文書を見てきましたが、こうした事業報告書等は提出後、閲覧できるようになり、誰でも見ることができるようになります。

このことからも、医療法人の経営に透明性が求められていることが分かります。

実務上は、都道府県により若干扱いが異なり、「すべて自由にコピーができる」・「指定した先のみ閲覧ができる」・「ファイルに綴じられていて、紙ベースで閲覧する」・「PDFになっていて、パソコン上で閲覧する」等々、さまざまです。

事前予約が必要なところもありますので、閲覧に行く際は必ず都道府県のHPを確認するようにしましょう。

例えば、神奈川県のように、「横浜市内のみに所在する医療法人は、県ではなく、横浜市の方で閲覧してください」というルールになっている自治体もあるので注意が必要です。

どう生かすか

実際、確認に行くのは医療機関に出入りする業者関係が多いようです。

逆に言えば、新規で営業に来られる方は、すでに先生の「貸借対照表・損益計算書」は確認済みという可能性が高いです。

もし、私が不動産や保険の営業マンだったら、先生の医院の財務内容を頭に入れてからお伺いします。

財務上の前提をしっかり把握した上で、ご提案した方が通りやすいからです。

極端な例かもしれませんが、離婚した奥様が別れた旦那の医療法人を見に行くということもあるそうです・・・。

とはいえ、この制度を有効に使うことも十分可能です。

地域の医療連携において、連携候補先の状況を確認しておくというもできると思います。

貸借対照表や損益計算書の財務情報だけでなく、展開している事業や関与している関係会社等がわかることで、繋がり方が見えてくることもあります。

事業規模や展開している事業内容をしっかり分析してみましょう。

まとめ

この医療法人の「閲覧」という制度は、当該先生方からすると結構気持ちの悪い制度だと思います。

そして、「自院のことで手いっぱいだ」という先生も多いかと思います。

でも、それで良いと思います。

変えられるのは自分だけです。

まずは、自院の経営に全力投球しましょう。

われわれ専門家も全力でサポートしていきます!