医療機関の損税はどう対策すればよいか?
※最終更新日:2020年6月1日 全体像を把握しやすくするため、Q2と統合しました。
消費税が上がるタイミングで必ず話題に上がる医療の損税問題。
「医療機関って、消費税で損しているらしいね」
これくらいの認識の先生も多いのではないでしょうか。
こんにちは。
「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。
そもそも、損税問題とは何なのでしょうか?
そこで今回は消費税の損税問題について、内容の解説と損を防ぐ対策について考えていきたいと思います。
※この記事は次の人にオススメです。
・医療機関に影響する消費税の損税問題について理解したい人
・損税問題に対し、どう対策したら良いか知りたい人
損税になるのはなぜ
この損税問題については、消費税の計算上の構造に原因があります。
事業者が預かった消費税から支払った消費税を控除し、残った差額を納付するのが消費税です。
課税売上に係る消費税ー課税仕入れに係る消費税=納付税額
つまり、消費税は消費者(=患者さん)が負担するものであって、事業者が負担するものではないのです。
ただ、課税仕入れに係る消費税は課税売上割合(総収入に占める課税売上の割合)の分しか、控除できません。
例題
①医業収入10億円(保険診療8億円+自由診療2億円)⇨課税売上割合20%
②仕入れ及び経費9億円(そのうち、課税仕入れ3億円)
解答と解説
①課税売上に係る消費税 2億円×10%=2,000万円
②課税仕入れに係る消費税 3億円×10%=3,000万円
3,000万円×20%=600万円
③納付税額 ①ー②=1,400万円
つまり、預かった消費税は2,000万円に対し、3,000万円+1,400万円=4,400万円が支払うことになり、超過した2,400万円が医療機関の負担になっているのです。
本来、事業者にとって消費税は損も得もない税金のはずです。
ただし、保険診療収入という非課税売上が中心となる医療機関は、どうしても課税売上割合が低くなり、結果として、納付税額が多くなってしまうのです。
株式会社の場合は、ほとんどが課税売上であるため、課税仕入れに係る消費税が全額控除でき、何も問題とならない場合がほとんどです。
医療機関であるがゆえの問題として、医療の損税問題と呼ばれています。
補填方法
損税をどう補うか。ここからは、補填方法とその課題、今後の展望について見ていきましょう。
1.診療報酬で補填
初診料や再診料、入院基本料などを上げることで、増える負担の分だけ、収入の増加で補おうという考え方です。
初診料が1点、再診料が6点上がったのはそのためです。
2.設備投資減税
医療の損税が大きな問題となる時は、課税仕入れが大きい時、すなわち、設備投資をした時です。
そのため、診療報酬の補填だけではなく、税金上の優遇措置を設けることで、医療機関の負担の増加をケアしていこうという考え方です。
①500万円以上の高度医療機器(特別償却12%)
②働き方改革の推進(勤務時間の短縮)(特別償却15%)
③地域医療推進構想実現のための病床再編(特別償却8%)
損税対策の課題
上記、診療報酬の補填と設備投資減税の2本柱で対応していくことになりますが、その課題も出ています。
1.診療報酬で補填
初診料などは個々の医療機関で、当然算定状況に差が出ます。
つまり、補填具合にも差が出てしまうということです。
患者さんの出入りが多く、たくさんの初診料・再診料を算定できる医療機関は良いですが、そうでない医療機関は補填が足りません。
日本の病院全体では補填できていたとしても、各病院間では補填具合にバラつきが生じます。
2.設備投資減税
こちらも万全ではありません。
まず、対象資産でないとこれらの減税措置の適用を受けることができません。
医療機関の設備投資の種類はもっと多岐に渡ります。
そして、特別償却という「経費の増加」であるため、税金の発生しない赤字の医療機関は何らメリットがありません。
法人税が非課税となる社会医療法人にも同じことが言えます。
今後の展望
今後の対策として、いろいろな案が出されていますので、2つご紹介します。
1.個々の医療機関で過不足が生じた場合に、申告して精算するという案
個々の医療機関で補填具合に差が出るのであれば、申告させ、過不足に応じて精算しましょうという案です。
計算して申告するという事務負担はどれくらいになるのでしょうか。
2.保険診療収入を非課税から課税売上(0%)にするという案
そもそも、医療の損税問題は保険診療が非課税売上であるため、課税売上割合が下がってしまうことが原因です。
ならば、課税売上にしてしまおう。さらに、10%だと患者さんの負担が増えてしまうので、0%の課税売上にしてしまおうという案です。
この話をクライアントにすると、「0%なのに、課税って変じゃない?」と言われます。
実は、既に世の中には0%の課税取引というものが実在します。
それは、輸出取引です。輸出取引には消費税はかからず、かつ、課税仕入れに係る消費税も全額控除できます。
ただし、輸出取引は輸出先の国で税金が課されます。医療はそうではありませんので、輸出取引が良いから、医療も良いはずとはいかないかもしれません。
まとめ
医療の損税問題は消費税の税率が上がるたびに、話題になります。
消費税の構造的な問題なので、どのような形で最終着地するか分かりませんが、現状認められている対応策である診療報酬の補填と設備投資減税の2本柱、そして経費の削減で対応していくことが当面現実的な対応策になると思われます。
できる対策をしっかり取り組むことが大切です。