税理士が医療法人や開業医のお客様に提案する3つの相続対策事例

 

※最終更新日:2020年8月7日

こんにちは。

「医療経営 中村税理士事務所」の中村です。

今回は、お客様との事例として病院やクリニックのお客様と一緒に相続対策を考える時の「考え方の流れ」をご紹介します。

「相続対策って、何をしてくれるんだろう」

「相続対策って、誰に相談したら良いんだろう」

「そもそも、相続のことがよく分からない」

こうした方も多いと思います。

重要なことは、いきなり各論を深掘りしたりせず、まずは全体を俯瞰することです。

そうすると必ずしも、「相続税対策」だけが重要なのではないということを感じると思います。

相続税対策も含めて、相続人対策事業承継対策、この3つをバランスよく考えていく必要があります。

※この記事は次の人にオススメです。

「医療経営 中村税理士事務所」のお客様事例やお客様の声が気になる人

「医療経営 中村税理士事務所」では、相続対策にどのように取り組んでいるのか、気になる人

医療法人や開業医の事業承継はなぜ難しいのか

医師の事業承継はなぜ難しいと言われるのでしょうか。

それは、トップが原則医師であることが必要であるためです。

もちろん、株式会社であっても簡単ではないですのが、医療機関のように資格は要りません。

厳密には、あくまでも「原則」であるため、非医師であっても就任できるケースもありますが、現実的に見ても医療機関で働く各スペシャリストを束ねて経営していくことは相当難しいでしょう。

財産の面からも見ていきましょう。

病院やクリニックが医療法人である場合、出資持分の扱いもまた相続・事業承継を難しくさせます。

実務上よくある話なのですが、医療法人の理事長先生や開業医である院長先生の「相続財産」を確認した時に、「医療法人の出資持分」が大半を占めていることがあります。

医療法人の出資持分は、現金や預金と違い、換金性が大変低いものになりますので、結果として納税資金に困ることがあります。

また、相続財産の大半を占める出資持分を後継者に相続すると、結果として、他の相続人よりも多く財産を相続させることにもなりかねず、相続人間でのトラブルにつながる可能性も出てきます。

自分が亡くなった時に、子供たちが揉めないように、レールを敷いてあげるのが、親の責任ではないでしょうか。

よく聞く「相続税対策」とは、「税金の対策」のことであり、お金の問題になります。

しかし、それがすべてではありません。

(1)相続人対策

(2)事業承継対策

(3)相続税対策

お客様とは、この3つの対策を一緒にひとつずつ考えていくことにしています。

医療法人や開業医の相続人対策

「相続人間で揉めないこと」

これがとても大切です。

相続を経て、兄弟間に亀裂が入ったという話を聞くこともあります。

これは、税金以上に大切かもしれません。

遺言書を作ったり、相続財産の分割を決めておくなど、生前からできることはたくさんあります。

遺言書を作成することで、遺留分(※)の範囲にはなりますが、法定相続よりも被相続人の意思を反映した相続をすることができます。

※遺留分とは、相続人が請求できる一定割合の権利のこと

①配偶者1/2

②子供1/2

③配偶者と子供1/2を半分ずつ(1/4ずつ)

④父母1/3

⑤配偶者と父母(2/6と1/6)

⑥兄弟姉妹は遺留分ない

結果として、後継者に対して、遺留分以上の相続を行う場合には、他の相続人に対して「超過分」を現金等で支払うことで調整します。

これを「代償分割」と言います。

つまり、後継者は「代償分割」に備えて、現金等を準備しておく必要があります。

いずれにしましても、誰もが納得いく分割方法というのはなかなか難しいもので、誰かが譲らないと決着できないケースもあります。

その場合、「みんなで話し合った」という事実があるだけで、全然違います。

財産を渡す側の意思を明確にすると共に、受け取る側への配慮も必要です。

医師であれば、医療関係の財産(事業用財産)を後継者に渡すことになった場合、その後継者以外の人へのフォローが必要です。

下記の具体例にもあるような「不動産やMS法人を渡す」、「事業をプライベートをきっちり分けて、プライベート資産を渡す」など、財産の種類と金額に応じて最適な方法を選択していくことが大切です。

医療法人や開業医の事業承継対策

「自分の病院やクリニックをどうするのか」

これも非常に大きな問題です。

後継者候補が複数いる場合は、誰にするのか決めなければなりません。

特に、医療法人の出資持分については、複数人に持たせるのではなく、後継者に集中させた方が後日問題になる可能性が低くなります。

いわゆる「兄弟経営」はうまく行かなくなるケースが多いのは、医療機関に限った話ではありません。

仮に、兄弟経営であっても、兄は医療機関で弟は介護施設と分けたり、兄がMS法人の代表で弟が医療機関などというように、役割分担を明確にすることでうまくいっているケースもあります。

親である理事長先生や院長先生がご存命のうちは良いのですが、お亡くなりになられた後、うまくいかなくなるケースも散見されます。

「うちの子達は大丈夫」と仰る先生も多いのですが、兄弟仲の良い場合でも、その配偶者が発端となり、兄弟間・相続人間で関係悪化となることもあります。

対応策は2つあります。

(1)生前に持分を移しておくこと

生前から持分を移しておくことで、親の意向が明確になります。

「持分は後継者、それ以外は他の相続人」というように、道筋をつけることができます。

(2)「認定医療法人」などを活用して、持分のない医療法人へ移行しておくこと

そもそも、持分のない医療法人であれば、「出資持分」を巡る争いは起きません。

持分のない医療法人への移行には、デメリットもありますので、多角的に判断するようにしましょう。

持分なしの医療法人への移行が気になる方はこちらのブログをご参考にしてください。

併せて確認!Q22「医療法人は持分なしへ移行すべきか?」

 

また、認定医療法人が気になる方はこちらのブログもご参考にしてください。

併せて確認!Q23「認定医療法人制度を活用しての持分なしへの移行はアリか?」

とは言え、近年では後継者候補がいるだけで幸せかもしれません。

後継者候補自体がいないという方が多いです。

その場合は、第3者への売却を検討していくことになります。

持分ありの医療法人であれば、その出資持分を譲渡することになります。

売って得た所得には、所得税と住民税併せて約20%の課税があります。

買った側は、その医療法人の資産や負債はそのままに、医療法人を運営していくことになります。

契約締結後に、帳簿に載ってこない債務(建物の大規模修繕が必要になったり、患者さんとのトラブル等)が発覚し、後で揉めるケースもありますので、双方契約書をしっかり確認した上で進めていく必要があります。

ちなみに、実務上多くはありませんが、持分のない医療法人のM&Aの場合には、「持分の譲渡」という考え方がありません。

そのため、売却対価として売却側へ役員退職金を支給したり、基金を返還したりするケースもあります。

承継に伴って診療方針が変わる場合などには、そのための設備投資や修繕なども計画的に行っていく必要があるため、その資金も見込んでおく必要があります。

M&Aをする場合においても、病院やクリニックで使う土地を理事長先生や院長先生個人で所有していると、その後も不動産収入が入ってくることになりますので、そうした医療機関↔︎個人(MS法人含)間での資産の所有バランスも大切になってきます。

医療法人や開業医の相続対策

もちろん、相続税の対策も大切です。

相続人が相続税を納めるために、借入をして納税しているようではいけません。

納税後も借入の返済が続くからです。

基本的な考え方のひとつは、相続財産の評価額を下げるような対策を取り、税額を下げていく方法です。

その相続財産の中で多くの割合を占めるのが、「出資持分」「土地」になります。

ここでは、「出資持分」の評価額を下げていく流れを解説していきましょう。

具体的な手順は下記の通りです。

類似業種比準価額方式か純資産価額方式か判定する

類似業種比準価額方式がメインであれば、利益を減らす対策を取る

純資産価額方式がメインであれば、純資産評価額を減らす対策を取る

持分の評価方法や各々の注意点については、過去のブログで解説しています。

併せて確認!Q58「医療法人の出資持分はいくらで譲渡したら良いのか?評価方法総まとめ」

また、持分の評価を引き下げて相続税の対策をした事例についても紹介しています。

事例ベースで確認されたい方はこちらもご参考にしてください。

併せて確認!「お客様事例!出資持分に対する相続税・贈与税を節税してから事業承継」

ただし、評価額を下げることは、財産が減ること(または形を変えること)を意味します。

評価額を下げることに躍起になり、気がついたら納税原資となる資産がない・・・ということにならないように注意しましょう。

また他の対策方法として、債務を増やすことにより、相続税の課税価格を減らす方法も金融機関を中心に提案されています。

確かに、相続時に相続税の納税額は減りますが、当然、債務も残るため、相続人は返済していかなければなりません。

借入を基に不動産賃貸を始めたものの、意外と空室率が高く、借入の返済が思うように進まない失敗事例もよく聞きます。

詳しくは、過去ブログをご参考にしてください。

併せて確認!Q55「医師の相続税対策〜借入しての不動産投資の落とし穴とは?」

医師の相続税対策と言うとどうしても「税額を押さえる」ことに主眼が置かれがちですが、「納税資金を準備しておく」ことも非常に大切です。

もうひとつ、相続税対策を見ていきましょう。

贈与を使った相続税対策という方法です。

これは、生前のうちから、長い時間をかけて出資持分を贈与していく方法です。

なぜ、長い時間かと言うと、まとめてたくさん贈与するとその分贈与税が高くなるからです。

年間110万円までなら非課税で、年間310万円までなら税率10%で贈与することができるため、これくらいの範囲で少額ずつ移していきます。

・メリット→税率が低いこと

・デメリット→時間がかかること

つまり、少しでも早いうちから計画的に贈与していくことで、十分に対策期間を取ることができため、より高い節税効果を得ることができます。

仮に、相続まで時間がないようでしたら、贈与税の税率を上げてでも、大きな金額で移していくというスピード重視の考え方でも良いと思います。

特に医療法人の出資持分は、時間の経過と共に上昇していく傾向があります。

評価の低いうちに、後継者へ贈与していくことで相続税対策になります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

3つの対策すべて大切です。

繰り返しになりますが、いきなり各論に入るのではなく、全体を俯瞰する必要があります。

心配されていること、将来のリスクになりそうなこと、見落としていること、すべて机の上に広げてオープンにしましょう。

医療経営を専門とする税理士が、医師特有の相続対策をサポートします!