医療機関の財務諸表はここを見る!
(最終更新日2020年4月14日)
病院やクリニックといった医療機関では、財務諸表は非常に大切なものになります。
経営に携わるものとして、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の3つを「読む力」、「推測する力」は必須のスキルになります。
もちろん、顧問税理士から毎月報告を受けることで自然と磨かれていきますので焦る必要はありませんが、よりレベルアップするために、こうした医療機関向けのブログで勉強することは非常に大切なことです。
そこで今回は、3つの財務諸表の中から「貸借対照表」を取り上げ、そのポイントを効率よくお伝えしていきます。
※このブログは次の人にオススメです。
・貸借対照表の細部ではなく、押さえるべき大枠を知りたい人
・貸借対照表を読める人がどこを見ているのか、知りたい人
・各勘定科目を見る上でのチェックポイントが知りたい人
・貸借対照表を使って効率よく財務分析をしたい人
財務諸表が苦手な理由
たくさんの経営層の方とお会いしてきましたが、財務諸表に苦手意識がある方はとても多いと感じています。
その反面、苦手意識のない方もいらっしゃいます。
その違いはどこにあるのでしょうか?
実は、知識ではありません。「得意だ」とおっしゃる方も知識があり、財務諸表をゼロから作れるわけではなく、【見るべきポイント=目の付け所】が分かっているだけだったりします。
私が話し始めると、ご自身で財務諸表の「いつものポイント」に目をやりながら、お話を聞いてくださいます。
それで十分、財務諸表を活用できていることになります。
ですから、財務諸表に苦手意識があるのは、説明する側の責任だったりします。
貸借対照表の見るべきポイント
そこで、今回は医療機関で大事な財務諸表3つ(Q11「病院・クリニックにとって大切な財務諸表とは?」参照)のうち、貸借対照表の【見るべきポイント=目の付け所】について、解説していきます。
まず、大きく分けて2種類の方法があります。
(1)金額で見る
単純に貸借対照表の金額を見て、その金額の増減や内訳を確認する方法です。
(2)比率で見る
いわゆる「財務分析」と言われるもので、財務諸表の構成比で見ていきます。
このブログでも「財務分析」というカテゴリーがありますので、そちらも併せてご参照ください。
金額で見る
見るべきポイントを箇条書きで列挙していきます。
1.流動資産
①現金及び預金・・・残高が合っているか(特に窓口現金)
②医業未収入金・・・回収不能はないか(特に企業健診や対患者さん)
③薬品・診療材料・・・過剰在庫や不良在庫はないか
④貸付金・・・回収の可能性は十分か。相手先の状況は?
⑤仮払金・・・内容の確認。換金性はあるか。
⑥立替金・・・回収の可能性は十分か
⑦前払金・・・契約通りか
2.固定資産
①建物・医療機器・車両などの資産・・・実在し稼動している資産か
②差入保証金・・・契約に基づき返金されるものか
3.流動負債
①買掛金・未払金・・・支払いが滞っていないか
②仮受金・・・内容の確認(収入漏れに直結するため)
③預り金・・・納付漏れや精算漏れないか
4.固定負債
①長期借入金・・・返済計画に無理はないか
比率で見る
1.流動比率
1年以内という短いスパンで現金化される流動資産と、逆に、現金支出が見込まれる流動負債のバランスを見るものです。
単純に言えば、「直近で出て行くお金に対し、手元資金で間に合うのか」というものです。
算式:流動資産÷流動負債(%)
目標は、200%(直近で出て行くお金に対し、2倍の手元資金がある状態)です。
より厳密に資金繰りを管理したいのであれば、分子の流動資産から前払金などの換金性のないものを除き、「現預金+医業未収入金」に限定して考えることもできます。(当座比率と言います)
2.固定長期適合率
今度は反対に、固定資産と固定負債+純資産の比率で考えてみます。
流動比率は資金繰りを見る指標でしたが、これは設備投資の適正具合を見る指標です。
算式:固定資産÷(固定負債+純資産)
目標は100%未満です。100%を超えてしまうと、それは運転資金が設備投資に回っていることを意味します。
長期にわたる設備投資は、長期にわたる借入金と内部留保でまかなうようにしましょう。
まとめ
貸借対照表を見るには、金額か比率で見ていきます。
比率で見る指標はご紹介した2つ以外にも、いろいろあるのですが、まずは、流動比率と固定長期適合率の2つを見ることができれば、十分です。
意外と目の付け所は、シンプルであることが実感できたかと思います。
金額と比率で見るこの方法は、次回見て行く損益計算書でも使うことができます。
財務諸表が少しでも経営判断のお役に立てましたら、税理士として嬉しく思います。
・併せて確認!「Q13 医療機関の財務諸表はここを見る!〜損益計算書編〜」
・併せて確認!「Q16 病院・クリニックでキャッシュフロー計算書をどう活かすか?」