病院・クリニックの財務諸表が読めるようになるQ11

 

(最終更新日:2020年4月15日 全体像が見やすいように、Q10と合体して書き直しました)

病院やクリニックにとって、財務諸表はとても大切なものです。

具体的には、「貸借対照表」 「損益計算書」 「キャッシュフロー計算書」の3つを抑えておけば十分です。

「キャッシュフロー計算書」は監査の義務がある大きな医療法人でない限り、作成の義務はありませんが、お金の流れを示す大変大切な財務諸表になりますので、作成するようにしましょう。

とはいえ、財務諸表を作成していない病院やクリニックはないと思います。

それでは、どれくらい活かせているのでしょうか?

これは病院によって、大きく差が出ます。

そこで今回は、財務諸表の基本からスタートし、その分析のコツまでお伝えします。

※この記事は次の人にオススメです。

財務諸表の基本を理解したい人

基本の次のステップまで到達したい人

財務諸表を分析できるようになりたい人

「比較スキル」を磨きたい人

貸借対照表

期末日時点での資産や負債の状態を表します。

「お金がいくら残っているのか」

「直近で払うお金はどれくらいか」

「借金はいくら残っているのか」

こうした財産・債務の状況が一目で分かります。

もちろん、前回までに見てきた財務分析をすることで、それが適正なのか、もしくは、至急改善すべきなのか、という経営判断にも役立てることができます。

損益計算書

こちらは、1事業年度の経営成績を表します。

「医業収益は順調に推移しているのか」

「人件費は増えすぎていないか」

「今期の利益はどれくらいになりそうか』

損益計算書を通じて、医業収益(=売上)が○○円で、医業費用が○○円で、残りが利益という形で把握することができます。

家計簿とイメージは同じです。

つまり、損益計算書を毎期毎期積み重ねた結果が、貸借対照表と言えます。

キャッシュフロー計算書

最後に、キャッシュフロー計算書とは、1事業年度におけるキャッシュ(=現金・預金)の流れを表したもので、お金の動きが分かります。

「利益出たのに、お金貯まってないのは何でだろう」

「借入金を返済していけるのか」

「設備投資して大丈夫か」

キャッシュフロー計算書は資金繰りの管理には欠かせません。

作成は基本的には義務ではありませんし、貸借対照表や損益計算書と違って、税務署へ提出するものでもないのですが、重要性は高いものになります。

われわれ専門家もクライアントから資金繰りのご相談を頂いた時には、キャッシュフロー計算書を用いて説明すると、ご理解いただけることが多いです。

それでは、貸借対照表や損益計算書ではお金の流れは把握できないのでしょうか?

お金の流れはキャッシュフロー計算書でしか、正確に把握できません。

貸借対照表で把握できるお金は期末時点での残高のみです。

損益計算書の医業収益は入金されたお金と同額ではありませんし、医業費用も出て行ったお金と同額ではありませんので、利益=溜まったお金とはなりません。

利益が出ていながらも、資金が回らなくなることを「黒字倒産」と言います。

キャッシュフロー計算書を作成することで、お金の流れを把握することができ、黒字倒産は防ぐことができます。

外部への作成義務・提出義務はないとしても、「税理士としてお客様への報告義務はある」と考えています。

「比較スキル」を磨くことが大切

ここからは、分析のコツを見ていきましょう。

財務諸表を分析する(=読み解く)上で、最も大切なことは「比較すること」です。

比較をすることで、自院の傾向や特徴が分かります。

比較する材料は、財務諸表の数字そのものでもいいですし、前回までに見た財務分析の数値でもOKですが、両方見ることがベストだと思います。

「過去」との比較も大切

まずは、自院の中で過去と比較し、その推移を把握してみましょう。

①2期比較

前期との比較です。直近との比較になりますので、数字の改善や悪化になった根拠や原因を見つめ出しやすく、早急に対応が取れるというメリットがあります。

その反面、過去からの経緯が反映されず、前期突発的に起きた事象などと比較することにもなり、「分析」という面で不十分な面もあります。

②5期比較

現在の病院経営は、いわゆる「制度リスク」と呼ばれる外部の影響(地域医療構想や診療報酬改定など)を大きく受けるため、事業計画を立てる上でも、5年間が限度と思われます。(10年間の事業計画に実現性は低い)

その点から考えても、この5期比較は直近5年間の比較であるため、過去からの経緯も分かり、取り組んできた施策の成果も見ることができます。

反面、数字の羅列となり、数字の苦手な先生には、読みづらいようです。

③3期比較

①と②の中間です。長所も短所も半分ずつというイメージです。

実務的には、多用されるケースが多く見受けられます。

「同業他社との比較」だって大切

もうひとつの比較が、この同業他社との比較です。

過去との比較が自院だったのに対して、他院との比較となります。

ベンチマーク分析などもこれに入りますが、ポイントがひとつあります。

それは、「病院の機能が近いものと比較」するということです。(病院の場合)

当たり前のように聞こえるかもしれませんが、世の中には様々な経営統計資料があり、「医療機関」とか「病院」という大まかな集計単位のものがたくさんあります。

その数値は様々な機能を持った病院の平均値に過ぎず、それと比較しても正確な分析結果にはたどり着きません。

必ず、一般・療養などの機能別や医療法人・自治体病院など開設主体別に同業他社との比較を実施することにしましょう。

【このブロックのまとめ】

同業他社との比較をする上で、オススメの統計資料をご紹介します。

それは、厚生労働省が毎年公表している【病院経営管理指標】です。

様々な切り口で集計されているため、自院と同じ機能の病院を探してみてください。

必ず、自院の強み・弱みが見えてくると思いますので、そこから改善点を整理していくには最適な入り口です。

まとめ

「貸借対照表」・「損益計算書」・「キャッシュフロー計算書」は各々長所があり、それは重複しないため、3つでお互いを補い合っています。

つまり、この3つの財務諸表を毎月作成し、毎月確認し、専門家からアドバイスをもらうことは、将来経営上のリスクを避けるという点で大変重要なポイントになります。

また、分析する上で「比較する」というスキルは必須です。

「過去との比較」は、現在までの経営指標の変化を見ることができます。

「同業他社との比較」は、自院を客観視することができます。

どちらも大切な視点になりますので、この比較するというスキルを磨いていきましょう!