MS法人は節税に使えるのか?メリットや規制について
最終更新日:2020年5月18日 MS法人に関する知識を体系的に習得できるように、Q100と統合して再編成しました。
こんにちは。
「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。
「MS法人って、設立した方が良いのかな」
「MS法人を今後どのように運営していったら良いのかな」
こうしたMS法人絡みのご相談も、たいへん多くいただきます。
病院やクリニックなどの医療機関には、MS法人という関連会社を持つケースがあります。
多くのメリットがありますが、「節税」を目的として設立している場合が1番多いです。
しかし、直近の医療法改正で「関連会社に対する報告義務」が制定されるなど、規制の方向へ向かっているのも事実です。
そこで今回は、MS法人を持つ場合の節税効果とその注意点、節税になる仕組みや取引金額の設定方法などについて、解説していきます。
MS法人に関する重要なポイントを、ギュッとまとめて解説していきます。
※この記事は次の人にオススメです。
・MS法人について各論点を体系的に学びたい人
・MS法人を所有し続けるべきか、これから設立しても良いのか心配している人
なぜMS法人を持つのか
MS法人とは、メディカルサービス法人の略です。
医療法人は医療法等の関連法令により業務範囲が限定されているため、規制を受けないMS法人を設立し、医療以外の業務を行わせています。
例えば、医療消耗品や医療器具の仕入・販売、不動産の賃貸、動産の賃貸、物販、売店経営、事務の派遣、清掃の委託、経営指導等です。
これらは医療経営上、必要性が高いものですが、医療法人の業務としてできないものもあります。
医療法人ができるのは、「本来業務」「付帯業務」「付随業務」に限定され、医療経営として必要であっても、医療法人で行うことが難しい業務もあるわけです。
そこで、医療法人ではない株式会社などで、MS法人を設立することになります。
MS法人を持つメリットと具体例
医療法の適用を直接受けないということが、MS法人の代表的なメリットになりますが、他にメリットがあります。
(1)所得の分散による節税効果
例えば、直接外部の会社と取引をする場合と比べ、MS法人を経由して取引をすると、MS法人と医療法人で所得を分散することになり、結果として節税になります。
詳しくは後述しますが、MS法人は仕入価格に利益を乗せて医療法人へ販売します。
医療法人はMS法人の利益加算後の価格で仕入れて、患者様等へ売り上げすることになります。
この流れを踏むことで、医療法人の利益はMS法人へ流れ、節税効果が生じることになります。
(2)理事長先生の資産分散など
理事長先生の個人所有の不動産をMS法人へ所有させることによって、理事長先生個人の所得をMS法人との間で分散することになります。
先生個人の資産を減らし、相続税対策に。
不動産賃貸収入を得て、老後の収入源に。
(個人所得になりますので所得税課税があるのと、使わなかった不動産賃貸収入は現金・預金として、相続税課税となる点は注意しましょう。)
このケースでは、理事長先生個人の将来の生活資金対策や、後の相続税対策に有効活用できます。
(3)親族間での所得分散
MS法人の代表を配偶者や子供にすることで、親族へ所得を分散することができます。
例えば、医療法人で使っている土地をMS法人へ売却します。
または、資金に余裕があればMS法人で直接、医療法人が使う土地を購入します。
そして、その土地を医療法人へ賃貸します。
こうすることで、MS法人は不動産賃貸収入が立ち、役員である配偶者や子供へ役員報酬という形で、所得分散することができます。
配偶者や子供を直接医療法人の役員とし、役員報酬を支払うこともできますが、役員としての貢献(役割)がないと名目だけになってしまいますので、注意が必要です。
また、事業承継に絡めて、少し変わった形もあります。
医療法人の理事長先生が引退し、MS法人の代表へ就任し、上記の不動産賃貸収入を得る形です。
医療法人の理事長は後継者へ任せ、ご自身はMS法人の代表取締役に就任します。
代表取締役と言っても土地の賃貸だけですので、難しいことはありません。
この形で、老後の資金をMS法人を経由して受け取ることができます。
(シンプルに、理事長から平理事になり、役員報酬を受け取る形もありますが、報酬金額が下がります)
※これらのことは、土地に限らず建物でもOKです。
デメリットや注意点もある
良いことばかりのようですが、そもそも「MS法人を絡めて取引をする必要があるのか」という視点は常に必要です。
医療経営上必要な取引をするのであれば良いのですが、「節税」が先に出てしまうと問題です。
強引に取引を作ることがないようにしてください。
強引とは、過剰な利益の上乗せによる市場価格から乖離した高額取引のことです。
高額取引の方が医療法人の節税メリットにはなりますが、税務上容認されるものではありませんのでご注意ください。
また、直近の医療法改正で、「関連会社に対する一定規模以上の取引報告義務」が制定されました。
今後は都道府県の監視の元、MS法人を運営しないといけません。
適正取引であれば問題ありませんので、過度に心配する必要はありませんが、より透明な医療法人の経営が求めれるようになってきている点は踏まえておきましょう。
医療法人との関係性が重要
節税だけでなく、MS法人単体で見たときには、運営上の大切なポイントとして「医療法人との関係性が重要」になってきます。
具体的には、医療法人とMS法人の役員の兼務についての問題です。
「医療機関の法人役員、開設者や管理者は、利害関係にある営利法人の役職員を兼務していないこと」を原則としています。
取引金額が少額である場合等、例外もありますが、「営利法人の影響を受けない状態であること」という意味になります。
医療法人の運営指導要綱では、「非営利性の観点から適当ではない」という表現になっていますが、最悪、行政指導の対象になるケースもあります。
兼務OKの例外に該当しているのか、NGなのか、事前に確認しておきましょう。
関係事業者に関する開示事項とは、規制なのか
医療法の改正により、「関係事業者との取引の状況に関する報告書の作成義務・開示義務・提出義務」が規定されました。
毎事業年度終了後2ヶ月以内に、「関係事業者との取引の状況に関する報告書」を作成する必要があります。
関係事業者=MS法人ではなく、MS法人のうち、医療法人の役員の近親者が代表者である場合等、より医療法人との関係が深いMS法人に限定されます。
ただ、多くのMS法人がこうした医療法人と深い関係にありますので、該当する場合が多いと思います。
「関係事業者」に該当したうえで、かつ、一定規模以上の取引をした場合に報告義務が生じます。
①事業収益または事業費用が1,000万円以上、かつ、収益総額または費用総額の10%以上を占める取引
②事業外収益または事業外費用が1,000万円以上、かつ、事業外収益総額または事業外費用総額の10%以上を占める取引
③特別利益または特別損失の額が1,000万円以上の取引
④資産または負債の総額が当該医療法人の当該事業年度末日における総資産の1%以上、かつ、残高1,000万円以上の取引
⑤資金貸借、有形固定資産の売買等が1,000万円以上、かつ、当該医療法人の当該事業年度末日における総資産の1%以上の取引など
上記、ラインギリギリの場合には、決算前に確認し、対処することで報告の対象外とするケースも出てくると思います。
医療法人の経営の透明化に伴い、MS法人に対する監視・指導は厳しくなってきています。
以前あったような利益の移転や医療法人に対する支配目的を最優先にすることはできません。
今後はますます適正かつ効率的な運営が求められています。
とは言え、MS法人を持つメリットは十分ありますので、どう活用するかということです。
専門家に相談の上、MS法人をどのように運営したらベストなのか、豊富な選択肢の中から考えていきましょう。
節税になるのは、利益が分散されるから
ここからはもう少し踏み込んで、節税になる仕組みや取引する上での注意点、取引金額の設定方法などを中心に解説していきます。
MS法人を持つことが、節税対策として考えられるのはなぜでしょうか。
まずは、通常の取引を見てきましょう。
(1)通常の取引
業者3,000万円→病院4,000万円→患者さん
病院は業者から3,000万円で仕入れたものを、4,000万円で患者さんに販売します。
利益は1,000万円で、税率30%として税金は300万円です。
(2)MS法人が絡む場合
業者3,000万円→MS法人3,600万円→病院4,000万円→患者さん
まず、MS法人が業者から3,000万円で仕入れ、自社の利益を乗せて、3,600万円で病院へ販売します。
それに病院は利益を乗せ、4,000万円で患者さんへ販売します。
MS法人の利益は600万円で、税金は180万円。
病院の利益は400万円で、税金は120万円になりました。
利益をMS法人と分散させたため、病院の税金は300万円→120万円まで下がりました。
不自然は取引は認められない
ただし、気になる点があります。
そもそも、MS法人を絡めて取引をする必然性はあるのでしょうか。
MS法人には、医療法人が医療に専念できるように周辺業務をサポートするという存在意義はありますので、あとは「取引金額の妥当性」が論点となってきます。
下記のような点に気をつけて、取引をしなければなりません。
①MS法人から病院への売値が、同業他社の価格に比べて乖離していないか。
②不動産の場合には、近隣相場と比べて乖離していないか。
③医薬品や高度管理医療機器等は、薬局や医療機器賃貸業など一定の資格が必要。
具体的な取引ラインはどれくらいか
それでは、もう少し踏み込んで、取引価格の目安を考えてみましょう。
①医療消耗品や医療器具の仕入・販売→10%程度の差益が目安
②適正リース料→リース料倍率は取得価額の1.25倍程度が目安
③不動産賃貸→近隣相場との比較等を基に総合的に勘案
④人材派遣→実際の人件費の1.2倍程度が目安
あくまでも目安にはなりますが、一般の事業会社はこれくらいの利益を上乗せして、病院に対して取引をしています。
その一般の事業会社と同じくらいの利益率を維持して取引をしていれば、「不自然な取引」となる可能性は低いと思われます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
MS法人について、主に「節税対策」を中心に、メリットやデメリット、規制という視点で解説してきました。
本来、MS法人は病院やクリニックが医療に専念できるようサポートするため存在します。
節税の意識が強過ぎ、取引金額の設定を間違え、失敗した事例も数多くあるようです。
しっかりとしたルール作りをすることが大切です。
お客様からも非常に相談の多いMS法人。
MS法人を最大限活用するには、豊富な経験と知識が必要です。
必ず専門家にご相談ください!