医療法人などの医療機関の資金調達に重要な格付けとは
こんにちは。
「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。
最近は、コロナの影響もあり、資金調達に関するご相談が増えています。
医療機関の場合、社債を発行したりすることが難しいため、資金調達と言えば、「金融機関からの融資」がメインとなります。
実務的には、コロナの影響で各種特例ができ、融資は通りやすくなっていますが、そもそも、どのように審査されるのでしょうか。
「金融機関に決算書出したら、返事がくるよ」
これくらいの認識の先生もいらっしゃいます。
そこで今回は、金融機関がどのように医療機関を評価しているのか、その評価基準について解説していきます。
※この記事は次の人にオススメです。
・金融機関の評価基準を知りたい人
・評価基準を知ることで、融資を受けやすくなりたい人
※コロナ特例について確認したい方は下記の記事をご覧ください。
「Q109 病院やクリニックなどの医療経営は、コロナ対策をどうするべきか?」
定量要因
評価基準は、数字で評価される「定量要因」と数字では評価しづらい「定性要因」に分けられます。
まずは、「定量要因」から見ていきましょう。
すべてにおいて共通ではありませんが、代表的な要因は下記のようになります。
各要因には、配点があります。
(1)安全性項目
経営の安全性を見ていきます。当然、安全性が高い方が貸す側からの評価が高くなります。
1:自己資本比率 10点[自己資本÷負債と純資産の合計]
自己資本比率については、下記の記事をご覧ください。
2:ギアリング比率 10点[有利子負債÷自己資本]
3:固定長期適合率 7点[固定資産÷(固定負債+自己資本)]
固定長期適合率については、下記の記事をご覧ください。
「Q52 病院やクリニックの設備投資の可否に使う〜固定長期適合率〜」
4:流動比率 7点[流動資産÷流動負債]
流動比率については、下記の記事をご覧ください。
「Q51 病院経営やクリニック経営の安全性はどう判断するか?〜流動比率〜」
(2)収益性項目
医療機関の収益性が高いかどうかを見ていきます。
売上高や総資本は大きいのに、利益があまり出ていないと評価は低くなります。
1:売上高経常利益率 5点[経常利益÷売上高]
売上高経常利益率については、下記の記事をご覧ください。
2:総資本経常利益率 5点[経常利益÷総資本]
3:収益フロー 5点[3期黒字]
(3)成長性項目
医療機関が伸びているかを評価します。
成長性が高い方が貸す側としては安心です。
1:経常利益増加率 5点[(経常利益−前期経常利益)÷前期経常利益]
2:自己資本額 15点[金額そのもの]
3:売上高 5点[金額そのもの]
(4)返済能力
医療機関の返済能力を見ます。
1:債務償還年数 20点[有利子負債÷償却前経常利益]
2:インタレスト・ガバレッジ ・レシオ 15点[(営業利益+受取利息+配当金)÷支払利息]
3:キャッシュフロー額 20点[営業利益+減価償却費]
合計129点満点になりますが、100点満点に計算し直して、評価します。
この点数に応じて、格付けされていきます。
・90点以上→格付け1
・80点以上→格付け2
・65点以上→格付け3
・50点以上→格付け4
・40点以上→格付け5
・25点以上→格付け6
・25点未満→格付け7〜10
実務上、格付け1や2の医療機関はほとんど見受けられません。
自己資本額や売上高などの単純な金額の大きさでは、大きな株式会社の方が高い点数になるためです。
また、反対に8〜10というのもあまり見受けられません。
多いのは3〜7であり、この格付けを上げていくことが大切になります。
格付けを改善するためには
格付けを改善するポイントは、「配点の高い項目」を改善することです。
例えば、配点5点の売上高が3点だったとして、改善しても最高5点にしかならず、2点しか上がりません。
配点20点の債務償還年数が3点だったとして、改善して20点になったら、17点ものスコアアップになります。
それでは、配点が20点と高い項目が2つありますので、見ていきましょう。
(1)債務償還年数
(2)キャッシュフロー額
共に、「返済能力」に関するものです。
金融機関はお金を貸すわけですから、「返済能力」を重視するのは当然です。
配点5点の売上高は、「返済能力」に影響はしますが、直結はしないため低めの配点になるわけです。
算式を見て、共通しているのは「利益」です。
つまり、利益がしっかり出ていること、これが大前提です。
償却前利益や営業利益が赤字であれば、この算式から導かれる答えはひどいものになります。
当然、配点も高くなりません。
他の安全性項目や収益性項目、成長性項目でフォローすることもできますが、まずは返済能力を重視して、「利益をしっかり出してから融資を受ける」ことが大切です。
定性要因
続きまして、数字では評価しづらい「定性要因」です。
1:市場動向10
2:景気3
3:市場規模4
4:競合状態7
5:業歴5
6:経営者・経営方針10
7:株主5
8:従業員モラル3
9:営業基盤10
10:競争力7
11:シェア7
こうして項目を列挙してみると、自院の経営努力には関係ない項目も存在します。
また、評価者によっても変わりそうな項目も存在します。
こうした項目が評価に加味されることを押さえておけば良いと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
定量要因を定性要因の両方を見てきましたが、より重視されるのはどちらでしょうか。
それは、定量要因になります。
やはり、「数字」という根拠があることが強みになります。
コロナ特例に関わらず、まずは定量要因の中から「返済能力」の点数を高めることを目標にしましょう。
結果的に、経営改善につながることになります。
金融機関の評価基準を知ることで、きちんと融資を受けることができるようにしましょう!