減床を見据えた病院経営の今後と赤字脱却のポイントとは

 

最終更新日:2020年5月20日

こんにちは。

「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。

「今後の病院経営に不安がある」

「ここ何期かは赤字が続いている」

こうした経営に不安を抱える病院が増えています。

病院経営とは、さまざまな要因から成り立っています。

たとえば、

(1)外部要因

・地域包括ケアシステムや地域医療構想下での役割

・将来の患者推計や受療動向(経年変化)

・診療報酬改定

(2)内部要因

・病院機能

・医療提供体制

・財務状態や収支構造(財務分析+非財務分析)

こうしたさまざまな要因で成り立つわけですが、診療報酬改定などはその一側面ということになります。

その診療報酬改定では急性期病院の絞り込みが前面に出ています。

そこで今回は、診療報酬改定から派生して、減床など病院経営の今後についていろいろな角度から考えていきましょう。

※この記事は次の人にオススメです。

財務分析や収支構造分析のコツを知りたい

非財務分析を病院経営に活かしたい

減床することを経営の選択肢のひとつとして考えている

病床選択について

まずは、病院経営を図る上での代表的な指標である、「病床稼働率」について考えていきましょう。

当然、問題となるのは、稼働率の低い病院です。

特に地方では50〜60%台の低い稼働率の病院もありますが、やはり95%は切りたくないところです。

各病院がこの稼働率維持のため、日々努力されているわけですが、逆の考え方もあるかと思います。

つまり、空床が続くのであれば、減床という選択です。

たとえ空床であっても、許可病床に対して職員を配置することになるわけですから、稼働病床に対して生じる収益とのバランスが取れません。

そこで、減床することにより、人件費を削減することができ、病院経営のバランスをとることができます。

この場合、「採算が合うのか」という視点が基本になりますが、大きな決断を伴うものになりますので、判断材料が重要になります。

その地域での将来の人口動態や受療動向(医療ニーズ)

現行の診療報酬制度における収支の予測

将来的な診療報酬改定の流れ

こうした各種の分析をもとに、判断していくことが重要です。

具体例を挙げて、考えていきましょう。

自院周辺の医療ニーズを考慮して、異なる入金基本料の病床を設置することで、新規患者の獲得範囲を広げる

受療動向から増加する疾患をメインにした専門特化を図る

地域連携の強化により、早期の入退院支援ができる体制を構築する

空床が続くのであれば減床し、余剰人員を押さえる(または人材不足の部署へ配置転換する)

介護分野などの地域内でのニーズに応えていく

【このブロックのまとめ】

これからも病院経営の基本戦略は、将来の医療ニーズをもとにした「地域の役割分担」に応じて、自院の立ち位置を明確にしていくことが大切になります。

一般的には、「急性期後」の機能が求められているため、リハビリ強化や在宅など、より広い事業展開が必要となります。

急性期機能に維持にこだわり過ぎず、「急性期」以外の医療ニーズにも対応していくことが求めれています。

自院で提供できる医療」と、「地域で求められている医療」の合致するポイントはどこでしょうか。

そこが一致しないのであれば、一致するような「選択」が必要になってきます。

病院の収支構造を理解し、細分化していくことで見えてくる

ここからは、経営改善について解説していきましょう。

税理士という立場から、お客様に強く期待されるのが、「財務分析」や「収支構造分析」です。

これらは、医療機関内部の方はあまり得意とされないこともあり、税理士への相談・質問も多い部分であり、積極的な解説や改善提案をしています。

まずは、ざっくりと「収益」と「支出」を細分化してみましょう。

(1)収益

入院収益

(イ)診療単価

(ロ)延患者数(病床数・稼働率・回転数・平均在院日数)

外来収益

(イ)診療単価

(ロ)延患者数(患者数・平均来院回数)

その他(事業外の収益や特別収益)

(2)費用

医薬品費や診療材料費

(イ)購入単価

(ロ)使用量

人件費

(イ)ひとり辺り給与

(ロ)従業員数

委託費

減価償却費

その他固定費

こうして細分化していくと、どこに課題があり、どのように手をうつべきか、ということが見えてくると思います。

たとえば、(1)入院収益の②延患者数を見れば、

救急の受け入れ

外来からの入院

紹介(地域の開業医や施設、他の病院等)

などの要因を「入り口」として挙げることができますが、こうした「入り口」に問題・課題はないでしょうか。

また、延患者数とは、「実患者数×平均在院日数」に分解することもできます。

病床稼働率に気を取られ過ぎて、平均在院日数が伸び過ぎてはいないでしょうか。

「入り口」はしっかりしているものの、在宅復帰や施設への紹介等の「出口」は問題ないでしょうか。

「病床利用率」「平均在院日数」「病床回転率」・・・こうした非財務情報もしっかり分析し、課題抽出→改善案を実行しましょう。

そして、この繰り返し(トライ&エラー)が経営の基本となるのは、医療機関に限った話ではありません。

【このブロックのまとめ】

ここ数年を年次比較で見たときに各数字が悪化している場合には、必ず悪化要因があります。

その悪化要因を改善できる策はないでしょうか。

もし仮になかったとしても、そこからさらに細分化した場合ではどうでしょうか。

経営に強い病院は常にこれを繰り返しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

病院に関わらず、経営する上では「内部要因」と「外部要因」の影響を受けることになります。

特に病院やクリニックといった医療機関は保険診療収入を軸としているため、「外部要因」の影響を大きく受けることになります。

だからこそ、診療報酬の改定や各種の制度変更に日頃から注目し、また税制改正といった財務情報も収集し続ける必要があります。

自院内で完結しようとしても、その情報は量・質共に頼りなく、偏ったものになりがちです。

そこで頼りになるのが、税理士やコンサルタントといった外部のブレーンです。

彼らの協力を得ながら、同じ目標やビジョンを掲げ、課題解決・経営改善に取り組んでいけるといいですね!