医療法人の出資持分はいくらで譲渡するのか?評価方法総まとめ

 

※最終更新日:2020年5月1日

相続の際や医療法人運営において、しばしば問題となる医療法人の出資持分

その評価は、「取引相場のない株式の評価方法に準じる」とされています。

それでは、どのように行うのでしょうか?

今回は、「準じる」という点に着目し、まず、医療法人の出資持分特有の考え方について解説していきます。

そして、相続や贈与の時のみならず、譲渡する際の価額の決め方についても解説していきます。

※この記事は次の方にオススメです。

医療法人の出資持分がいくらになるか、その評価額が気になる人

5ヶ所の違いを押さえる

まず、大前提として出資の評価が必要となるのは、出資持分ありの社団医療法人です。

持分のない社団医療法人は、資本金の概念がありませんので、評価は不要となります。

また、財団医療法人はそもそも出資の概念がありませんので、こちらも評価は不要となります。

それでは、違いを列挙していきたいと思います。

(1)評価方法として、配当還元方式はない(配当がないため)

(2)比準要素数0の判定は、直前期末の(利益金額及び純資産価額)のいずれもが0であるとき(配当がないため)

(3)比準要素数1の判定は、2期続けて赤字であるとき(配当がないため)

(4)類似業種比準価額の算式分母は2(配当がないため)

(5)純資産価額は100%評価(議決権に差がないため80%評価ない)

(6)同族株主判定は不要(議決権平等のため)

株式会社とのこれらの違いは、「配当禁止」や「一人一議決権」によるところから生まれています。

今回は「医療法人」を学んでいただくために、比較対象として「株式会社」を持ち出し、その違いをまとめてみました。

医療法人に対する理解として、お役立ちいただければと思います。

評価上の補足情報

①規模判定

「小売・サービス業」

②業種判定

「その他の産業」(業種目番号113)・・・大分類のみ

出資で評価しないケースもある

社員が死亡退社した場合に、その相続人の相続税上の課税価格は次のように分かれます。

(1)相続人がその払い戻しをせず、出資を取得して社員となった場合

→上記出資持分としての評価

(2)相続人が実際に出資払戻請求権に基づき、払い戻しを受けた場合(=出資を相続しなかった場合)

→出資払戻した金額

社員資格を喪失した被相続人が権利行使する意思表明がある場合には、その意思に従うことになります。

ただ、実務上は相続人が決定することが多いため、被相続人の準確定申告にてみなし配当の申告をすると共に、「払戻請求権」という金銭債権として、相続税の申告をしていくことになります。

譲渡をするときは

まずは、相続や贈与をする際の評価方法について、解説してきました。

とは言え、医療機関内で働かれている皆様は、自院内で持分の評価をすることはあまりないと思います。

実際の評価におきましては、お気軽に専門家までご相談ください。

それでは、譲渡をする際も同じ評価額で良いでしょうか。

これは、医療法人を運営していく上でのコンサルティング、かつ、出資者の相続税対策事業承継対策でもある論点です。

医療法人の出資持分は、相続・贈与のみならず、譲渡することもできます。

その際、問題となることが多いのが、譲渡する時の価額です。

相続税のシミュレーションをし、その流れで、その評価額を使って譲渡してしまうケースを見かけます。

その場合には、本来あるべき価額よりも低い価額で譲渡されることとなり、低額譲渡という別の問題が生じる可能性があるので注意しましょう。

いくらにすれば良いのか

「売却価格なんて、売り主と買い主で合意した価格で良いでしょ?」というご質問をよく頂きます。

確かに、第3者間であれば、基本的にはいわゆる「市場価格」になるはずですので、問題ありません。

問題となりがちなのが、法人が絡む同族関係者(夫婦や親族)間である場合です。

同族関係者間(親族など)では、「市場価格」になるとは限りません。

夫婦間や親族間では利害関係が一致するため、お互いにとって都合の良い金額設定で取引が可能です。

そのため、売り主も買い主も実質的に同一人物と考え、合意した価格ではなく、「税務上の株価」であるべきと考えられます。

そこで、法人が絡む譲渡には、相続税上の評価額ではなく、所得税法上・法人税法上の評価額を使います。

所得税法上・法人税法上の評価額とは

相続税のシミュレーション上、よく使われる相続税法上の評価額とどう違うのでしょうか?

基本は相続税の財産評価を軸にしながらも、下記の3箇所が変更されます。

中心的な同族株主である時は、「小会社」として評価

土地と上場株式については、時価評価

純資産価額方式における評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しない

個々の解説は次回以降にしますが、ポイントとなるのは「3つとも相続税の財産評価額を上げる要因である」ということです。

つまり、相続税上の評価額では取引金額として低いということです。

特に法人税における株式評価については、法人税自体が儲けに課税されるものであるため、時価評価が必要になります。

まとめ

医療法人の出資持分については、譲渡するよりも、相続・贈与する方が多いと思います。

実務的に、頻出する論点ではありませんが、その分注意するようにしてください。

上記にあるように、「小会社」で評価すると「純資産価額」又は「Lの割合を0.5とする類似業種比準価額と純資産価額の併用」とのいずれかになります。

こちらも個々の用語の説明は次回以降に回しますが、結論として、「医療法人は法人内に利益が蓄積しやすいので、純資産価額の評価額が高くなりやすく、そのため、小会社評価だと評価額も高くなってしまう」と覚えておいてください。

今回はたくさんの専門用語が出てしまいました。

1個1個を理解する必要はありません。

専門家のアドバイスをもらいながら、結論ベースで押さえておければ十分です。