認定医療法人制度を活用しての持分なしへの移行はアリか?
※最終更新日:2020年5月1日
前回Q 22「医療法人は持分なしに移行すべきか?」では、医療法人の持分をどう考えるかという解説をしてきました。
その中で選択肢の一つとしてふれた「認定医療法人制度」について、深掘りをしてみたいと思います。
※この記事は次の人にオススメです。
・認定医療法人制度の活用を検討している人
・認定医療法人の数多くある要件を理解したい人
・納税猶予額の計算方法を知りたい人
活用を検討すべき医療法人は?
そもそもですが、前回もふれたように、持分のある医療法人は出資者からの高額な払い戻しに対するリスクと出資者自身の相続税が過大になってしまうという問題があります。
ですので、こうした問題に対応するために、認定医療法人制度は存在します。
下記の2つの場合、認定医療法人への移行を検討しても良いでしょう。
(1)出資者からの高額な払い戻し請求がありうる場合
実務的には、理事長先生から遠い存在の方で、出資持分を持っている方がいる場合には注意してください。
身近な方に比べ、払戻請求権を行使してくる可能性が高いからです。
(2)相続税額がとても大きくなってしまう場合
出資持分は財産権であるため、お金に換金しうる反面、相続財産になります。
納税しきれないような相続税額になるケースもあります。
制度の内容
要件はたくさんありますが、厚生労働省のHPには詳細な説明が掲載されていますので、ここでは要点を絞って解説していきます。
まず、注意していただきたいことは、移行の申請は2020年の9月30日までということです。
延長になる可能性もあると思いますが、まずはそれまでに、真剣に検討する必要があります。
そして、厚労省へ申請後、3年以内に持分を放棄して、定款変更をする必要があります。
3年間の猶予があることもポイントです。
定款変更まで完了すれば、持分のない医療法人となり、通常は贈与税が課されるところですが、この制度であれば贈与税は課税されません。
これが制度の大枠です。
※令和2年度の税制改正にて、申請期限が3年間延長になりました。
認定の要件
では、なぜこの制度を使うと贈与税が課税されないのでしょうか。
それは、同族経営から1歩進んだ「ある程度の公益性」を求められるからです。
そして、この「ある程度の公益性」を6年間、維持することが求められます。(厚労省に移行後6年間、年1回のペースで報告書を提出します。)
具体的には、下記のような内容です。
①役員報酬に支給基準があること
②法人の関係者や株式会社に、特別の利益提供がないこと
③遊休財産額が事業にかかる費用の額を超えないこと
④社会保険診療報酬等が全収入の80%超であること
⑤自費患者への請求金額が社会保険診療報酬と同一基準であること
⑥診療収入が患者に直接必要な経費の150%の範囲内であること など
大きく分けると運営に関するもの(①②③)と事業に関するもの(④⑤⑥)に分けることができます。
事業に関する④⑤⑥はすでに満たしていたり、対応可能である場合が多いと思います。
問題は運営に関する①と②でと③す。
注意したい運営に関する要件
まずは、①役員報酬に支給基準があることですが、普段、どのように役員報酬を決めていますでしょうか。
役員(親族)だけで話し合いの上、決めている医療法人も多いと思います。
この制度を使うのであれば、基準に沿った決定が求めれます。
金額も高すぎるとNGになるケースも想定されますので、年3600万円くらいまでという想定でいた方が良さそうです。
次に②法人の関係者や株式会社に、特別の利益提供がないことですが、役員社宅やMS法人を保有している場合には注意が必要です。
現状、保有しているだけでNGになることはないようですが、具体的な取引金額を見て、「豪華すぎる」・「高額すぎる」という指摘があることも想定されます。
取引として妥当かという判断が求められます。
最後に③ですが、医療法人として持つ財産に一定の制限が入ります。
経営が順調である医療法人であれば、着々と財産が溜まっていくはずですので、注意したいポイントです。
納税猶予
(1)相続税
相続により医療法人の持分を取得した場合に、その医療法人が相続税の申告期限において認定医療法人である時には、持分のない医療法人への移行期限まで、その納税の猶予を受けることができるというものです。
(2)贈与税
認定医療法人の出資者がその持分を放棄したことにより、他の出資者に贈与税が課税される場合には、持分のない医療法人への移行期限まで、その納税の猶予を受けることができるというものです。
具体的な計算方法
考え方は相続税も贈与税も同じです。
ここでは、相続税を例にとって解説します。
①通常の相続税を計算する
②医療法人の持分のみを取得したものとして、相続税を計算する(この金額が当該相続人の納税猶予額)
※他の相続人は①と同様に計算します。
③①−②=納付税額
基本的な計算の流れや考え方は、個人開業医の事業承継と同じです。
詳しくは、過去ブログをご参考にしてください。
Q44「個人事業者の事業用資産に係る納税猶予は開業医に使える制度なのか?」
まとめ
今回は、認定医療法人制度の適用を検討すべき場合はどのようなケースかという話から、制度の概要と注意点、納税猶予の計算方法を解説していきました。
認定医療法人制度は、十分に検討の余地がある制度です。
そして、納税猶予を受けましたら、猶予で終わらずに、免除まで受けられるように注意しましょう。
ただし、他にも前回Q22「医療法人は持分なしに移行すべきか?」で挙げたような別の選択肢もありますし、出資持分を下げて譲渡したり贈与したりという方向性もあります。
まずは、出資持分の評価を下げる対策を立てることから始めていきましょう。
次回以降、出資持分を下げるスキームも解説していきますので、「事業承継」のカテゴリーから併せてご確認ください。
この制度をよく理解し、専門家に相談した上で、適用を検討していきましょう。