医師の相続、配偶者居住権など配偶者に何を残すのか?Q131
こんにちは。
「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。
相続税対策は準備万端でしょうか?
その対策を考えていく中で、「配偶者に対し、何ができるのか」という想いが出てくると思います。
「少しでも財産を多く残してあげたい。でも、相続税は少しでも少なくしてあげたい。」
こうした先生もいらっしゃると思います。
実務上は、二次相続(その配偶者自身の相続)までシミュレーションすると、配偶者へ多く財産を渡すより、子供の世代へ渡してしまった方が良いケースが多いのも事実です。
とはいえ、配偶者に対する特例を知っておくことは非常に大切なことです。
そこで今回は、各種の相続税対策の中から「配偶者に対する」特例を解説していきます。
※この記事は次の人にオススメです。
・相続税対策を知りたい人
・相続税対策の中から、「配偶者」という切り口で知識を習得したい人
配偶者居住権とは
(1)配偶者が相続後も安心して暮らしていけるように
税金とは別にして、配偶者が相続されて嬉しい財産は何でしょうか。
それは、「自宅」と「現金」です。
言い換えれば、「生活の拠点」と「日々の生活費」です。
この二つがあれば、何とかなるでしょう。
ただし、これまでの相続では下記のような問題がありました。
例1:相続財産→自宅(土地建物3,000万円)+現金1,000万円
相続人→配偶者と子
法定相続分→1/2ずつ
解答:配偶者2,000万円と子供2,000万円
土地建物を共有にしないのであれば、配偶者は土地建物3,000万円を相続した後、もらい過ぎの1,000万円を現金で精算することになります。
その結果、老後の生活費が困窮するかもしれません。
配偶者と子が仲が良ければ良いのですが、そうでない場合、配偶者は自宅を相続できないかもしれません。
特に、相続財産の大部分を自宅が占める場合は要注意です。(その点、相続財産が多額にある医師は問題が生じづらいと言えます。)
そこで生まれたのが、「配偶者居住権」です。
配偶者が相続開始時に住んでいた自宅について、終身の間(有期も可)、その居住を保障する権利を言い、2020年4月1日以後の相続から設定できるようになっています。
この配偶者居住権の設定より自宅が保護され、結果として、相続分の枠にも余裕が生まれることで、生活費の元になる現金も相続しやすくなります。
例2:上記設例1の自宅の配偶者居住権が1,500万円だった場合
解答:配偶者→配偶者居住権1,500万円+現金500万円
子→自宅の所有権1,500万円(3,000万円-配偶者居住権1,500万円)+現金500万円
上記、設例1では1,000万円もの精算金が必要でしたが、この配偶者居住権を設定することで精算金なしで、500万円の現金(生活費)も相続することができました。
(2)税務上の取り扱い
配偶者居住権は、相続財産となります。
そして、その配偶者自身の死亡や有期満了等に伴い、消滅します。
つまり、その配偶者が死亡した時には、相続財産にはなりません。
配偶者居住権の税務上の取り扱いは、土地・建物を居住権と所有権に区分して考えます。
その上で、期間満了時(終身なら平均余命)の所有権の価額を現在の価額の割り戻して、所有権の評価額を算定します。
それを土地建物の評価額から控除した残りが居住権となります。
結果として、所有権+居住権=土地建物の評価額(時価)となります。
実務上は、土地と建物別々に計算しますし、計算式もややこしいので、専門家に計算してもらえばOKです。
借地権や借家権のイメージに近いと思います。
贈与税の配偶者控除がある
年間110万円まで、贈与税がかからないというのは有名な話です。
実は他にも贈与税がかからない非課税枠があるのですが、そのひとつが「贈与税の配偶者控除」です。
婚姻して20年以上の夫婦であれば、居住用財産を2,000万円まで無税で贈与することができます。
自宅は「夫婦で築いた財産」という考え方に基づいています。
相続前に贈与しておけば、相続税の課税対象から外すことができます。
ただし、当然ながら、配偶者の相続財産になるため、どちらが良いか、事前にシミュレーションして決めることが大切です。
「配偶者の贈与税額控除」については、過去のこのブログでも解説していますので、こちらをご覧ください。
Q110「医師の相続税を節税!短期間で効果の出る相続税対策とは?」
小規模宅地等の特例もある
(1)内容
居住用の宅地等であれば、評価額が80%減となる有名な特例です。
適用には細かい諸条件があり、そのままだと適用できないケースが意外と多いのですが、非常に魅力的な特例です。
その細かい諸条件も、先生(被相続人)が住んでいた自宅を配偶者へ相続した場合には、無条件で適用OKとなります。
やはり、自宅は「夫婦で築いた資産」という考え方になっています。
同居していた親族やそうでない親族でも適用できるケースはありますが、これらには細かい諸条件がついてきます。
前述の通り、二次相続を見据え、配偶者よりも子供へ直接相続をする方が多いのですが、配偶者自身の保有財産の状況等によっては、適用を検討しても良いと思います。
居住用宅地等の特例については、過去に解説していますので、こちらをご覧ください。
(2)配偶者居住権との関係
配偶者居住権が設定された建物の敷地となる土地については、小規模宅地等の特例の対象になります。
ただし、子供も同居している場合には、配偶者居住権を設定するよりも、子供に相続させて80%評価減の適用を受ける方が有利になるケースが多いと思われます。
医師の相続に配偶者という切り口を
相続税対策を「配偶者」という切り口でまとめてみました。
このように、相続税対策は画一的に考えるのではなく、多角的に考えることが重要です。
ぜひ、専門家へご相談ください!