病院やクリニックの年末調整のよくある間違いとは?
※最終更新日:2020年6月8日 人的控除と物的控除両方確認できるように、Q 39と統合して再編成しました。
来月に迫ってきました年末調整。
前回Q37「病院やクリニックの年末調整の改正点とは」では、令和2年の改正点について、解説してきました。
改正点も大切ですが、そもそも年末調整の計算を間違えないようにしなければなりません。
「うちの先生、去年も間違えてたんだよな」
還付金の計算間違いは、信頼を一気に落とします。
そこで、今回は年末調整の間違いやすいポイントについて解説していきます。
私は医療経営に専門特化した税理士として、立場上、医療機関の年末調整のチェックをすることがあります。
その中から、よくある間違いをピックアップしていきたいと思います。
※この記事は次の人にオススメです。
・年末調整を間違えて、職員に迷惑をかけたくない人
配偶者控除
まず、本人に合計所得金額の判定が入ります。
合計所得金額が1000万円以下の人が対象です。職員様は大丈夫でしょうが、医師は特に気をつけてください。
そして扶養となる配偶者の合計所得金額は38万円以下です。
所得金額と収入金額が一緒になりがちですが、給与収入から給与所得控除を引いた残りが給与所得です。
所得とは、「もうけ」のことです。
事業や不動産のように、実際の経費を引いて所得金額を求める場合もありますし、給与のように給与所得控除という見なしの概算金額を控除する場合もあります。
これらの要件をクリアする場合には、38万円(配偶者が70歳以上である場合には48万円)を控除できます。
配偶者特別控除
控除対象となる配偶者の要件が変わります。
合計所得金額が123万円以下の場合に限り、配偶者控除とのダブル適用はありません。
もし、給与収入のみの職員様であれば、201万6000円が上限ラインとなります。
配偶者控除も配偶者特別控除も合計所得金額が1000万円を超えると完全に適用ができなくなりますが、900万円を超えた時点で、控除額が逓減されきますので、注意が必要です。
これらの要件をクリアする場合には、本人及び配偶者の所得金額に応じ、38万円〜1万円の範囲で控除できます。
寡婦控除
女性が多い職場である医療機関では適用が多いですので、忘れずに控除を受けるようにしましょう。
(1)離婚の場合
①扶養親族又は生計一の子がいる場合
(2)死別の場合
①扶養親族又は生計一の子がいる場合
②①がいなくても、合計所得金額500万円以下である場合
離婚の場合、①の扶養親族などがいない場合には合計所得が500万円以下であっても、寡婦控除の適用はありません。
金額要件のみで該当するのは、死別の場合のみです。
ここも間違いやすい論点ですので、ご注意ください。
これらの要件をクリアする場合には、27万円の控除をすることができます。
特別の寡婦
上記寡婦のうち、扶養親族である子がいて、合計所得金額が500万円以下である場合に、適用を受けることができます。
離婚の場合は、500万円以下という所得要件が乗っかってきます。
死別の場合は、①と②の両方の要件を満たすことになります。
これらの要件をクリアする場合には、35万円の控除をすることができます。
生命保険料控除の注意点
ここからは、生命保険などの人以外の物に関する控除について、解説していきたいと思います。
医療機関の職員様の年末調整を見ていると、女性が多いため、配偶者控除や扶養控除はあまり出てきません。
よく出てくるのが、この生命保険料控除です。
対象は本人が支払った契約に限られます。実は契約者が誰であるかではありません。
通常は契約者が保険料を支払うと思いますが、そうでない場合もありますので、ご注意ください。
控除額の計算は次のようになります。
(1)一般
①新生命保険料 上限保険料8万円→控除4万円 下限保険料2万円→控除全額
②旧生命保険料 上限保険料10万円→控除5万円 下限保険料2.5万円→控除全額
③新と旧両方ある場合は①+②(最高4万円)
∴①〜③で最大の金額
(2)個人年金
④新個人年金保険料 上限保険料8万円→控除4万円 下限保険料2万円→控除全額
⑤旧個人年金保険料 上限保険料10万円→控除5万円 下限保険料2.5万円→控除全額
⑥新と旧両方ある場合は④+⑤(最高4万円)
∴④〜⑥で最大の金額
(3)介護医療
①新生命保険料 上限保険料8万円→控除4万円 下限保険料2万円→控除全額
②旧はない
最終的に、(1)+(2)+(3)=12万円が控除額の限度になります。
システムで計算していますと、自動的に控除額が表示されます。
だからこそ、入力ミスをした時に気づけません。
保険料から控除額への流れを押さえておきましょう。
社会保険料控除の注意点
ご自身のみならず、扶養親族の方の社会保険料を支払った場合も、ご自身から控除することができます。
これは、本人が支払った金額が控除の対象になるためです。
間違いやすいのが、年金から特別徴収された介護保険料や後期高齢者保険料の取り扱いです。
仮に年金受給者を扶養していたとしても、年金から特別徴収(=天引き)されたものは、年金受給者である本人が支払ったものになりますので、扶養者側では社会保険料控除の適用を受けることができません。
もう1点、収集する証明書類です。
国民年金や国民年金基金については証明書が必要ですが、それ以外の保険料については証明書は必要ありません。
保険料控除申告書に記載された金額に基づいて、計算してください。
国外居住親族も対象に
物的控除から離れますが、追加でもう2点解説しておきたいと思います。
国外にいる親族を扶養している場合でも、扶養控除の適用を受けることができます。
「国外」とは、国内にはもう住所がなく、1年以上にわたり国内に居所もない人です。
海外に移り住んでいる人に対して、国内からお金を送金して扶養しているような状態です。
その場合には「親族関係証明書」と「送金関係書類」が必要になってきます。
親族であることと、送金していることを証明しなければなりません。
滅多に出てきませんが、病院にお一人くらいはいらっしゃるケースもありますので、ご注意ください。
合計所得金額とは
最後に配偶者控除や扶養控除の判定に出てくる「合計所得金額」という考え方です。
給与や不動産などの各種の所得金額を合計したものを言いますが、繰越控除がある場合には控除前、損益通算がある場合には通算後を言います。
間違いやすい論点として、実務上、下記のものは合計所得金額に含まれませんので、ご注意ください。
①確定申告不要を選択した上場株式等の配当
②確定申告不要を選択した特定口座の譲渡益(源泉徴収あり)
まとめ
医療機関の場合、職員様の多くが女性のため、お子様の扶養はご主人様の方につけることが多いと思います。
そのため、年末調整の計算も生命保険料控除がある程度で、男性が多い一般企業よりも年末調整の事務負担は軽い傾向があります。
(それでも大変だと思いますが・・・。)
だからこそ、今回ご紹介した所得控除の計算が出てきた時、間違えやすいのだと思います。
職員様ご自身の還付額や来年度の住民税にも影響してきます。
今回のブログを今一度ご確認の上、年末調整に備えてください。