経営計画作っていますか?医療機関での作り方
こんにちは。
「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。
今期は多くの医療機関や介護施設が、新型コロナウィルスの影響を受けました。
これは、期首の時点では想定できなかったことです。
期首に立てた経営計画とかなり解離してしまったのではないでしょうか。
「予定と大分変わってしまったから、計画を作り直したい」
「そもそも、経営計画作っていない・・・。」
こうした先生もいらっしゃると思います。
そこで今回は、医療機関や介護施設に向けて、「経営計画」の作り方を解説していきます。
医療法人でも個人開業医でも同じ考え方でO Kです。
逆風が吹く厳しい外部環境の時こそ、「経営計画」が大切になってきます。
経営計画の作成にお役立てください!
※この記事は次の人にオススメです。
・経営計画の作り方や考え方を知りたい人
・1度作った経営計画をメンテナンスしたい人
医療機関の経営計画の作り方(5つのステップ)
貴院では、毎期計画を作っていますでしょうか。
経営計画には、2つの側面があります。
資金繰りを中心とした財務面と、トップとしての考え方を示す思想面です。
共に大事なものですが、技術が必要なのは財務面です。
今回は、この財務面に絞って解説します。
まず、前提となるのが、貸借対照表と損益計算書です。
ただし、これだけではいけません。
貸借対照表も損益計算書も過去の実績ですので、参考にしながらも、未来が見えるようにする必要があります。
いわば、未来損益計算書を作成する必要があります。
損益計算書とは、直近1年間の経営成績を表しますが、経営計画においては、これを未来の数字で作る必要があります。
※損益計算書について自信のない方は、こちらをご覧ください。
Q 13「医療機関の財務諸表はここを見る!〜損益計算書編〜」
(1)ステップ1:スタートは経常利益
経常利益とは、毎期コンスタントに獲得が見込める利益です。臨時的なものは見込みません。
この経常利益を設定することから始まりますが、いくらに設定したら良いのでしょうか。
これはいろいろな考え方がありますので、あなたにとって都合が良いものでOKです。
①直近3年間の平均利益
②借入金の返済金額(年間)+修繕や設備投資に想定される費用
③同業他社の平均経常利益 など
経営ステージとして、まだまだ借入金の返済が重い先生には、②をオススメしています。
(2)ステップ2:医業外収益と医業外費用を加減算し、医業利益を計算
医業外収益(雑収入など本業以外の収益)と医業外費用(支払利息などの本業以外の費用)を加減算します。
各種統計資料を見ても、医療機関の場合、大きな医業外収益・医業外費用は立ちませんので、経常利益が大きく変わることはあまりありません。
「医業利益+医業外収益ー医業外費用=経常利益」
となるように、医業利益を計算します。この医業収益がコアとなる利益です。
(3)ステップ3:固定費を計上する
1年分の固定費を計上します。固定費とは売り上げの増減に影響されないものをいい、「変動費(医薬品や診療材料費、検査委託費)」以外をいいます。
固定費には、人件費も含まれます。
定期昇給や賞与も見込んで計上しておきましょう。
また、戦略経費とも言われる広告宣伝費等も見込みで計上しておきましょう。
(4)ステップ4:粗利益率で割り戻して、医業収益を求める
医業利益に固定費を加算することで、粗利益が算出できます。
これを粗利益率で割り戻すことで、必要となる医業収益を求めることができます。
粗利益とは、医業収益から医業原価(医薬品費・診療材料費・検査委託費)を控除して残る利益をいいます。
まずは、クリニックで考えていきましょう。
院外処方であれば、医業原価は15%くらいになりますので、原価率は15%→粗利益率は85%となります。
院内処方であれば、医業原価は30%くらいになりますので、原価率は30%→粗利益率は70%となります。
病院の場合は、その機能によって異なりますのが、概ね医業原価は15〜25%くらいになりますので、原価率は15〜25%→粗利益率は75〜85%くらいになります。
もちろん、業界平均値でなく、院内で設定した目標値でもOKですし、過去3期の平均値などからスタートしてもOKです。
※医業原価については、こちらをご覧ください。
Q 49「病院やクリニックの材料費比率をどう経営に活かすのか?」
(5)ステップ5:計画に幅を持たせる
こうして計算した医業収益は、目標として効果を発揮します。
ここからさらに、分院別・部門別・ドクター別等、貴院の実情に併せてカテゴリーに細分化してもいいでしょう。
この経営計画作成時に大切なことは、計画に幅を持たせることです。
コロナウィルスの影響は極端な話かもしれませんが、外部の影響等により計画の前提が変わってくることはよくあります。
①医業収益が目標よりも「5%減」「10%減」と複数のパターンで作成する
自院が環境の変化にどこまで耐えることができるのか、数字で明確に把握できることでため、対策もしっかり立てる準備ことができます。そのため、経営者としての不安な気持ちを緩和することにつながっていきます。
②作成した経営計画を12分割して、月別に落とし込む
こうすることで、毎月計画との差額を把握することができます。
③必要な補足情報を付け足す
ここまでで十分、経営計画として機能しますが、毎期赤字と黒字を行ったり来たりであれば、「損益分岐点」を追加してもいいでしょう。
これにより、毎月、損益分岐点との解離を把握して対処することができるようになります。
他にも、人件費が増加傾向の先生であれば、「人件費率」や「労働分配率」といった給与に関する指標を入れてもいいと思います。
自院の状況に応じて、欲しい情報を追加しておくことで、ますます、経営計画は有効に機能します。
※人件費比率については、こちらをご覧ください。
Q 50「病院やクリニックは人件費率をどう経営に活かすのか?」
医療機関の経営計画は部門別も必要
ある程度の規模間の医療機関であれば、部門別の計画も作りましょう。
クリニックであれば、分院別の計画も作りましょう。
全体の経営計画は上記にて完成済ですので、それを細分化していくだけとなり、決して難しくありません。
部門別・分院別個々の収支を把握することで、経営課題の把握や課題の解決など、的確な手を打てるようになります。
ポイントがひとつあります。
それは、共通費をどう割り振るかということです。
共通費とは、法人全体にかかる費用のことです。
各部門・各分院全体にかかるため、計画上、どう割り振るか迷う先生が多いようです。
法人内で統一ルールを作って運用していくことになりますが、医業業界に合致するのは、人数割です。
人的産業である医療業界は、職員様の頭数で計算するのが、1番現場の理解が得られやすい傾向があります。
まとめ
経営環境が厳しい時こそ、「経営計画」の作成の有無やその精度が明暗を分けることになります。
そして、経営計画の存在が、経営者としての気持ちに安心をもたらすことも忘れないでください。
経営計画をしっかり作成することが、未来を見据えた経営につながります。
一緒に経営計画を作成しましょう!