医療法人等の人件費対策には所得拡大促進税制を!
※最終更新日:2020年6月4日
医療機関は人的産業であって、費用の大部分を人件費が占めます。
当然、人件費は増加しますが、収入は同じように増加するとは限らず、多くの場合、人件費の負担が徐々に重たくなってきている医療機関が多い状況です。
そこで、今回は税務の面から、医療法人でも個人開業医でも使える人件費増加にベストな対策を節税の観点から解説していきます。
私は医療経営に専門特化した税理士として、この所得拡大促進税制を積極的に活用し、数多く節税してきました。
貴院にとっても有効な制度ですので、必ず活用するようにしましょう。
※この記事は次の人にオススメです。
・人件費の増加に悩む医療機関
・今期の節税対策を探している医療機関
所得拡大促進税制
人件費の増加にオススメの税制を「所得拡大促進税制」と言います。
これを上手に使いこなすことが重要です。
これは大まかに言うと、「払った給与が増えた場合には、増えた分に応じて15%〜25%の税金の減額をしてあげるよ」と言う制度です。
「社員の教育にも積極的であれば、追加して減額してあげるよ。」と言う上乗せもついてきます。
これは、要件が全てになりますので、ひとつずつ見ていきましょう。
要件①(賃上げ)
これがメインの要件になります。
前期より「支払った給与が上がっていること」が大前提です。出資金でふた通りに分かれます。
【出資金1億円以下の病院の場合】
継続雇用者給与等≧継続雇用者比較給与等×101.5%
【出資金1億円超の病院の場合】
上の算式が103%以上であること
継続雇用者給与等とは、「適用年度及びその前事業年度の期間内の各月において、給与等の支給を受けた国内雇用者のうち、雇用保険の一般被保険者に該当する者に限り、継続雇用制度の適用対象者(65歳まで)を除く者(=継続雇用者)に対する給与等」を言います。
算式右側の比較〜は前期のことです。
ざっくり言うと、「当期と前期合わせて24ヶ月ずっといた人で雇用保険の一般被保険者」ということです。
当期中・前期中に入社した人や退職した人、雇用保険に加入していない人や高齢者は対象外です。
あくまでも、【賃上げを対象としたいので、2年間丸々いる人達で、前期より101.5%以上賃上げしていてね】というイメージです。
要件②(設備投資)
【出資金1億円超の病院の場合のみ】
国内設備投資額≧当期償却費総額×95%
大きな病院の場合には、もうひとつ要件があります。
「昇給のみならず、設備投資もしてね」というものです。
国内設備投資額とは、適用年度において取得した減価償却資産(繰延資産や期中除売却は不可)の取得価額の合計をいいます。
つまり、当期の減価償却費の95%以上の設備投資をしていないと対象にはなりません。
この辺りで、出資金1億円以下の病院よりも適用が受けにくいかもしれません。
控除税額
【出資金問わず。結論は一緒。】
(雇用者給与等−比較雇用者給与等)×15%
雇用者給与等(※)とは、適用年度の国内雇用者に対する給与等を言い、比較〜とはその前期を言います。
※役員・その特殊関係者・使用人兼務役員を除く
※雇用形態は問わない
※給与等・・・給与・賞与(退職金は除く)
つまり、前期と比べて増えた給与等の15%を税金から控除してもらえることになります。
1億円だったものが、1億1千万円になったら、1千万円×15%=150万円の控除です。
要件①では、2年間通じて在籍していた雇用保険の一般被保険者を対象に判定しましたが、それは判定の時だけで、最終的には役員報酬関係を除いた給与の増加した差額の15%を税メリットとして受けることができます。
上乗せ要件
出資金の金額によって、2パターンに分かれます。
【出資金1億円以下の場合】
(雇用者給与等ー比較雇用者給与等)×25%
15%だった控除が25%へ大きく増加します。
要件は下記の2つです。
(1)継続雇用者給与等≧継続雇用者比較給与等×102.5%
前回の基本となる要件①では、101.5%以上でした。ほとんど変わりませんので、101.5%以上という要件を満たしている時点で、かなりの確率で102.5%以上も満たすはずです。
(2)①と②のいずれかに該当
①教育訓練費≧中小企業比較教育訓練費×110%
教育訓練費とは、外部講師の報酬・研修施設の賃借料・研修委託料・授業料などを言います。
昇給だけではなくて、職員研修に力を入れている病院には、上乗せで評価しましょうというものです。
算式右側の比較〜は、前期の教育訓練費のことです。
前期よりも110%以上増えていれば、OKです。100万円であれば、110万円以上で良い訳です。意識していれば、超えられる要件です。
②経営力向上計画の認定
これは、経営力向上について、報告書の作成・経済産業省へ申請⇨30〜45日程度で認定を受けるという要件です。
上記①との選択なので、よほど研修費が高くない限り、①の方が楽だと思います。
ちなみに医療分野であれば、労働生産性や経常利益率、職員の離職率、勤続年数などを確認する必要があります。
【出資金1億円超の場合】
(雇用者給与等ー比較雇用者給与等)×20%
1億円以下のように、25%にはなりません。要件は一つだけです。
教育訓練費≧比較教育訓練費×120%
まず、比率が110⇨120%に上がります。そして、中小企業という文言が外れます。
前期ではなく、直前2期の平均となります。(集計範囲が変わります。)
これによって有利になるかは各病院次第ですが、上乗せ要件はこれひとつですので、計算はしやすいかと思います。
控除上限
これまで、控除金額を見てきました。増えた金額の15%を基本線としつつも、出資金1億円以下であれば25%、1億円超であれば20%の控除が受けれます。
ただし、正確にはその権利を持っている状態で、上限が定められています。
法人税額の20%(出資金問わず)
「法人税が1000万円であれば、200万円までね」という考え方です。
つまり、黒字であること(=納税が出ること)が最低条件です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
適用を受けることができた場合の税メリットの大きさは、イメージがついたのではないでしょうか。
要件は専門用語が並び、ハードルが高いと思いますが、これでも税制改正によって適用の有無に関する判断はしやすくなりました。
実際の適用につきましては、信頼のできる専門家にご相談ください。
人件費高騰のご相談をいただくことは大変多く、医療界全体の問題とも言えます。
単純に賞与の支給を下げたり、人員を整理する前にこうした制度の適用を確実に受けることが大切です。