借地権として課税されないための無償返還の届出とは?Q132
こんにちは。
「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。
今回は、個人で土地を所有され、それを法人へ賃貸している先生に向けてお話しします。
資産家である医師の場合、実務上よく見かけるケースです。
何が問題なのでしょうか。
怖いのが、借地権の問題です。
そこで今回は、借地権の怖さとその怖さを回避する方法について解説していきます。
※この記事は次の人にオススメです。
・土地を所有していて、法人へ賃貸している先生
借地権の設定をしていますか?
基本的に、土地を賃貸しているのであれば、借地権を設定することが原則です。
・底地の所有者→先生
・土地の借主(借地権の所有者。実務上は法人が多い)→その借りている土地の上に、建物を建てる
この形が多いと思います。
例えば、1億円の土地で借地権の割合が60%である場合、1億円×60%=6,000万円の借地権を払う必要があります。
ただし、実務上よくある「同族会社や家族同士」で土地を賃貸する時に、これだけ大きなお金を動かすでしょうか。
多くの場合、無償で行われるはずです。
これを、税務上は「借主が貸主からタダで借地権をもらった」と考え、借地権の贈与があったとし、課税の対象となります。
この例で言えば、6,000万円の贈与があったみなされ、借主側で贈与税が多額に課税されます。
これを「借地権の認定課税」といい、注意が必要です。
相当の地代とは
それでは、「借地権の認定課税」は避けたいし、かと言って、権利金を払って借地権を取得するお金もないよ」というケースはどうしたら良いのでしょうか。
その回答のひとつが、「相当の地代」です。
借地権の設定がなくても、「土地の更地価額の6%(=「相当の地代」)」という通常よりも高額な地代を支払えばOKというものです。
これにより、一度に多額のお金が動くことはないのですが、「更地価額の6%」という高額な地代が必要になります。
仮に、今後10年・20年とこの賃貸関係が続くと想定してみてください。
それなりの金額になってしまうと思います。
無償返還の届出で解決!
もうひとつの解決策を見ていきましょう。
「将来、土地をタダで返還します」という約束をする「土地の無償返還に関する届出書」を提出する方法です。
「将来タダで返すんだから、借地権も相当の地代もいらないよね」という考え方です。
相当の地代を払うことなく、借地権の認定課税を受けることもないこの方法は、実務上は、多く採用されています。
とはいえ、注意点もありますので、気をつけてください。
(1)相当の地代ではないが、地代の支払自体は必要
地代はゼロではない方が良いです。
固定資産税の3倍程度がひとつの目安になると思います。
(2)個人×個人では使えない
個人同士の賃貸借では、この届出を提出することはできません。
個人間の場合には、賃貸料の発生しない使用貸借とすることが多いと思います。
(3)届出の記載方法
届出上、「借地権の設定等」と「使用貸借契約」を選択することになりますが、ここでは「借地権の設定等」を選択するようにしましょう。
賃貸契約をアピールすることになります。
(4)提出期限
法律上は「遅滞なく・・・」となっていますので、遅れることなくというイメージですが、基本的は「賃貸契約を結んだ事業年度の申告期限」くらいが期限になると思われます。
(5)賃貸借契約書を作成する
この「無償返還の届出」をする場合であっても、賃貸契約書は作成します。
その契約書の中で、将来無償で返還する旨を入れておく必要があります。
(6)将来の小規模宅地の評価減に影響
「無償返還の届出」をしている場合には、賃貸借契約になりますので、相続税上は自用地評価額の80%となります。
「無償返還とはいえ、貸しているのだから、借りている人の権利は除きましょう」という考え方です。
その借りている人の権利が20%となるため、自用地評価額の80%となります。
さらに、その評価額が「貸付事業用宅地等」として、50%評価減されます。
自用地評価額が1億円であれば、4,000万円まで評価額を落とすことができます。
ちなみに、「使用貸借」の場合には、自用地評価額そのものの価額となり、貸していませんので、貸付事業用宅地等の特例を受けることもできません。
※貸付事業用宅地等については、こちらをご覧ください。
無償返還の届出を出して、賃貸契約を結ぶ
実務上多い、「先生が土地を所有し、法人へ賃貸しているケース」では、この無償返還の届出を出して、賃貸契約を結ぶ形がベターと思われます。
もちろん、相当の地代を支払う形もシミュレーションして、それと比較して良い法をお選びください。
こうしたシミュレーションは、専門家までお気軽にご相談ください。
余計な借地権課税を受けないよう、今から準備しておきましょう!