医療機関の財務諸表はここを見る!
(最終更新日:2020年4月10日 全体像をつかみやすくするためにQ13〜15を統合し、再構成しました)
Q12医療機関の財務諸表はここを見る!〜貸借対照表編〜において、貸借対照表の見方について、解説しました。
今回は損益計算書を見ていきますが、基本的な見方は一緒です。
「金額で見る」方法と「比率で見る」方法の2つです。
そして、共通スキルとしての「比較する」ことも大切です。
最後に、損益計算書が見られるようになりましたら、コンサルティング的な視点で、「改善」までできるようになりましょう。
せっかくある「損益計算書」ですから、「改善」という行動まで繋げないともったいないです。
これを読めば、病院やクリニックといった医療機関の財務諸表(損益計算書)を基本から行動まで、マスターすることができます!
※この記事は次の方にオススメです。
・損益計算書を読むことができるようになりたい人
・損益計算書を経営改善に役立てたい人
・損益計算書の「目の付け所」を身につけたい人
「金額で見る」
まずは、「金額で見る」方法です。
損益計算書の金額をシンプルに見ていくだけでも、たくさんの情報を得ることができます。
下記にポイントを列挙していきます。
①医業収益・・・対前年・対前月と比較してみてどうか
②医業原価(薬品費・診療材料費)・・・原価率に異常はないか
③人件費・・・収入に対する比率の推移はどうか。
賞与や退職金など大きな支出はどれくらい見込まれるか。
④広告宣伝費・・・費用に対する効果の測定はできているか
⑤消耗品費・・・購入の承認ルートは機能しているか
⑥修繕費・・・今後見込まれるはどれくらいか
⑦寄付金・・・税の優遇措置があるか
⑧業務委託費・・・契約内容の見直し、内製化との比較
⑨水道光熱費・・・増加している場合には理由の確認
⑩雑収入や特別な収入・支出・・・内容の確認
こうした損益計算書の金額を確認するだけでも、多くの情報を得ることができ、また、経営上の課題や問題点に気付いたり、広がるリスクを事前に防ぐことができます。
利益も確認する
金額を見ることをお話ししてきましたが、上記に挙げた金額のみならず、利益を確認することも大切です。
損益計算書には4つの利益が存在し、意味が違っています。
①医業利益
事業利益と表記されることもありますが、医療機関としての収入から費用を費用を差し引いて残った医業の利益です。
現在、各種の統計情報によって赤字の病院が多く存在することは明らかですが、最終利益が赤字なのか、この医業利益が赤字なのかで、意味が全く違ってきます。
当たり前ですが、ここがきちんと黒字になっていること、これが必須条件です。
②経常利益
①の医業利益に医業活動に直接関係ない収入と支出を足し引きして、残った利益を言います。
具体的には、雑収入や受取利息、受取配当金などの収入と、支払利息などの支出を指します。
ですので、実務的には、医業利益と経常利益は金額として、それほど変わりません。
医業以外のちょっとした財務活動も考慮したものという程度の認識で問題ありません。
※国際会計基準では経常利益という考え方自体ありません
毎期見込まれる利益ということで、経常的な利益という意味です。
返済原資としても見込めますので、金融機関も非常に重視しています。
③税引前当期純利益
②の経常利益に特別な収入と支出を足し引きして残った利益です。
具体的には、保険の解約や固定資産の売却による差益、役員退職金や災害に関連した損失などを言います。
これらは、毎期生じるわけではありませんので、経常利益さえ黒字であれば、税引前当期純利益が赤字であっても、問題ありません。
翌期は黒字化できる見込みが高いと思いますので、焦る必要もありません。
④当期純利益
③の税引前当期純利益から納税を済ませて、残った最終利益です。
上場企業であれば、ここから配当しますので、株主にとっては重要なのですが、医療機関であればその点は気にする必要はありません。
ただ、基本的には、納税後の利益が病院に蓄積していくことになりますので、当然黒字で着地することを目指すべきです。
「比率で見る」
ここからは、もうひとつの見方である「比率で見る」について、解説していきましょう。
損益計算書は単純に金額を見るだけではなく、比率で見ると、また新しいことが見えてきます。
特に大事なのが、収入の対する比率です。
代表的なものを3つご紹介します。
(1)経常利益率 【経常利益÷医業収益】
医業収益に対する経常利益の割合です。当然、高い方が良いのですが、病院経営の特性上、上がり続けるわけでなく、5〜10%で推移できれば理想的です。
(2)人件費率 【人件費÷医業収益】
人的産業である医療機関において、もっとも大きな割合を占める大変重要な指標です。
低い方が良いと思われがちですが、適正に分配することも大切ですので、50〜55%を維持したいところです。
現実的には、上昇し続けている病院が多いですが、昇給・賞与などの管理が甘いケースも多く、ルールの整備だけで改善する場合も多々あります。
(3)医薬品費率・診療材料費率【医薬品費・診療材料費÷医業収益】
病院・クリニックにおいて、医業収入に直結する比率です。
医業収益に対する医薬品費や診療材料費の比率を言い、20%くらいで推移したいものです。
当然、医業収益が増えれば増加し、減れば減少すると思われますが、実務上は反比例するケースも見受けれます。
診療内容の変化などあれば良いですが、単純な発注や管理の問題であることが多く、いわゆるヒューマンエラーでないかという確認が必要です。
損益計算書は比較スキルを磨く!
損益計算書は「金額で見るか」、「比率で見るか」というお話をしてきました。
これらに共通して重要なことは、比較をすることです。
今期だけの金額、今期だけの比率ではなく、比較をしてほしいと思います。
①前期比較・3期比較・5期比較
自院の過去と比べ、その推移を見ることで、経営状態の変化をいち早く察知することができます。
改善している場合にはとってきた施策が良かったわけですし、悪化している場合には必ず原因があります。
その原因に手を打たなければ、ずっと悪いままです。
②同業他社比較
一般の会社と違い、病院はその機能によって、経営数字が大きく異なります。
必ず、同じ機能の病院と比較しましょう。
一般↔︎療養、医療法人↔︎自治体など、できるだけ細かく区切るとより良い分析ができるようになります。
そして、今回はもう1ポイント追加して見ていこうと思います。
それは、利益の違いを意識した経営改善の手法です。
4つの利益の特徴を知る
基本的な見方を知った上で、見て終わりではいけません。
せっかくですから、行動に移して、「改善」しましょう。
まずは、損益計算書には4つの利益が出てきますので、それぞれの特徴を押さえる必要があります。
繰り返しになりますが、大切なポイントですので解説していきましょう。
(1)医業利益(又は事業利益)
医業収益から医業費用を差し引いた残りです。
医業活動から生じた本来の利益で、当然黒字であってほしいものです。
(2)経常利益
医業利益に医業外の収益・費用を考慮した利益です。
字のごとく、経常的に生じる利益です。
(3)税引前当期純利益
経常利益に特別利益・損失を考慮したものです。
当期生じた特別な利益・損失は、来期も生じる可能性は低いため、
例1:経常利益(黒字)+特別損失=当期純利益が赤字
こうなってしまっても、特段心配する必要はありません。逆に、
例2:経常利益(赤)+特別利益=当期純利益が黒字
この場合には、来期赤字転落する可能性が高く、必ず対策が必要です。
(4)当期純利益
税引前当期純利益から税金を控除した利益になります。
基本的に、税金を控除した残りが病院内に蓄積していきますので、黒字着地したいところです。
利益から検討する改善策を立てる
これらの利益の特徴から見て分かるように、経営改善の指標とすべきは医業利益と経常利益になります。
この2つを入口として、改善策を考えていきましょう。
(1)医業利益が悪い場合
医業収益が少ないか医業費用が多いか、又はその両方となります。
①医業収益が少ない
病院であれば、入院と外来に分けて考えていきましょう。
入院であれば、入院患者数・入院単価・平均在院日数などの推移に注視しましょう。
悪化の原因は絶対ありますので、仮説が立つまで深掘りをしてみてください。
外来であっても、外来患者数・診療単価・来院日数などの推移に注視しましょう。
・救急を断っている(受け入れる体制が整っていない)
・医師によって診療単価や入院に至る割合に大きな差がある
・以前のように地元のクリニックから紹介が来なくなった など
様々な原因があるはずですので、徹底的に深掘りしていきましょう。
②医業費用が多い
医業費用には様々な費用があります。
人件費・医薬品費・診療材料費・委託費・設備投資費・水道光熱費・・・など。
各費用の増加した原因を深掘りしてみましょう。
・人材の採用が現場の要望通り
・経営状況を反映しない定期昇給や賞与支給
・薬品や診療材料の管理が甘い
・医師が医薬品や診療材料を各々発注している
こちらも様々な原因がありますので、徹底的に深掘りしていきましょう。
(2)経常利益が悪い場合
医業利益が良い金額なのに、経常利益が悪い場合は、財務活動に問題がある場合がほとんどです。
実務上、医業外収益はそれほど大きなものはありません。
雑収入(助成金や自販機の手数料など)くらいですが、雑収入の増加を経営上の目標とするのもおかしな話です。
注視すべきは、医業外費用に含まれる支払利息です。
借入過多の場合は支払利息が多額になりますので、結果、損益計算書以上にキャッシュフロー計算書が問題になりますので、キャッシュフロー計算書を入口にして改善策を検討していきましょう。
まとめ
今回は損益計算書の2つの見方について、解説してきました。
各項目・各利益にはちゃんと意味と機能があります。
その【目の付け所】だけ抑えておけば十分です。
また、2つの見方に共通する、「比較する」というスキルは大変重要なものになります。
比較することで、財務諸表から得られる情報は一気に増えることになります。
そして、後半に解説した「改善」も重要な行動になります。
医業利益と経常利益が悪化した場合には、その原因にぶち当たるまで、収益・費用を細分化していくことが大切です。
細かな要因の集大成が各利益となって表れるからです。
最後にふれたキャッシュフロー計算書を入口にした改善手法の具体例は、次回以降のキャッシュフロー計算書の回にしていきたいと思いますので、今回と併せてご確認ください。
数字が悪化した場合には、必ず理由があります。
数字を入口にし、その原因が見つかるまで、徹底的に深掘りしていきましょう!
併せて確認!「Q12 医療機関の財務諸表はここを見る!〜貸借対照表編〜」
併せて確認!「Q16 病院・クリニックでキャッシュフロー計算書をどう活かすか?」