病院で使う事業用の土地も80%評価減となるのか?
(最終更新日:2020年4月20日 見落としやすい適用要件を追加しました)
前回Q46「自宅の土地は80%評価減とは限らない?」では被相続人の居住用の宅地等について、その適用要件を中心に見てきました。
今回は、被相続人の事業用の土地です。
お父様が病院などの事業を営んでいて、その宅地等を相続するパターンもあるかとは思いますが、多くは、今事業用で使っている宅地等を相続させる方ではないでしょうか。
宅地等は相続財産の中で最も評価額が高くなることが多く、かつ、預金のように換金性もありません。
宅地等に係る相続税は、別の所から現金ベースで用意しなければなりません。
その事業用の宅地等に80%の評価減が適用できるか否かは大きなポイントですので、今回は事業用宅地等の評価減について解説していきます。
※この記事は次の人にオススメです!
・事業で使う土地の相続税が気になる方
・当然、事業用なんだから80%の評価減が受けられると信じている方
・実務上、適用が受けられなかった「ミス事例」を学びたい方
適用要件
個人が相続または遺贈により取得した小規模宅地等には、下記の特例が設けられています。(=贈与は対象外)
(1)事業用宅地等(400㎡限度で80%評価減。貸付事業は除く。)
①被相続人の事業用宅地等で、「事業を承継し、その宅地等を保有し続けている」親族が取得
②被相続人と同一生計(※)である親族の事業用宅地等で、「事業を承継し、その宅地等を保有し続けている」同一生計親族が取得
※同居もしくは仕送り等で生活を支えている状態
(2)同族会社に貸し付けられた事業用宅地等(400㎡限度で80%評価減。その同族会社は貸付事業ではないこと。)
①特定同族会社(被相続人・親族・特殊関係者が株式または出資の50%超を有する法人)の事業用宅地等で、「事業を継続し、その宅地等を保有し続けている」役員が取得
医療経営上は、MS法人や持分ありの医療法人が該当します。(持分なしの医療法人は該当しません)
また、特定同族会社の事業には、「貸付事業」は含まれないことになっています。
実務上は、MS法人が貸付事業を営んでいるケースもありますので注意ください。
(3)(1)で除かれた貸付事業用宅地等・(2)で除かれた同族会社の貸付事業用宅地等(200㎡限度で50%評価減)
①被相続人の貸付事業用宅地等で、「貸付事業を引継ぎ、保有し続けている」親族が取得
②被相続人と同一生計親族である貸付用事業用宅地等で、「自己の貸付事業を継続している」親族が取得
【このブロックのまとめ】
事業用の宅地等と言って真っ先に思い浮かぶのが、(1)だと思います。
病院やクリニックの土地を個人所有しているケースです。
前回の居住用宅地等では、居住用の宅地等は生活の資本であるため、納税のために手放すようなことにならないよう配慮されていると解説しました。
事業用の宅地等も同じです。
事業用の宅地等は生活を支える収入の源であるため、納税のために手放すことがないように配慮されているわけです。
貸している宅地等へは特例の恩恵が薄い
それでは、貸し付けている宅地等はどうでしょうか。
生活の資本や収入の源でしょうか。どちらかと言えば、余剰資金の投資という側面があると思います。
そこで、面積制限も半分の200㎡、割合も50%と評価減の恩恵は薄いものとなっています。
とは言え、50%は評価減できるわけですから、忘れずに適用を受けるようにしましょう。
実務上多いパターンはこのケース!
(1)は自己所有している宅地等を、自分で利用しているケースでした。
(2)は自己所有している宅地等を、医療法人やMS法人へ貸しているケースです。
個人所有の土地を、病院やクリニック、MS法人へ賃貸しているというパターンです。
この場合はどうでしょうか?
病院やクリニックの経営は生活を支える収入の源であり、納税のために宅地等を手放すなどあってはならないことです。
少なくとも、(3)の貸付事業のような余剰資金の投資ではないわけです。
そこで(1)と同様、400㎡限度で80%評価減の適用を受けることができます。
実務上のよくあるミス事例
よくあるミス事例をお話します。
①上記(2)同族会社に貸し付けた事業用宅地等ですが、医療法人も対象になりますが、持分のない医療法人は対象にはなりません。
②同じく(2)同族会社に貸し付けた事業用宅地等ですが、MS法人も対象になりますが、そのMS法人が不動産貸付事業を営んでいる場合は対象になりません。
どちらも医療界ではよくあるケースですので、ご注意ください。
特にMS法人は病院に対する業務の請負や物品売買のみならず、不動産を所有して貸し付けているケースも多いと思いますので、ご注意ください。
③事業承継後
また、長い間ご自身の事業用宅地として使っていた土地を生前に事業承継している場合も要注意です。
ご自身の感覚としては「事業用宅地」の感覚なのですが、事業承継をしている場合には、「後継者の事業用宅地」となり、厳密には後継者の相続の際、この事業用宅地の特例を受けることになります。
とは言え、現実的には後継者と一緒に事業を継続することも多いため、「その後継者と同一生計であり、その事業を引継ぎ、その土地を継続保有している場合」にも適用を受けることができます。
医師の場合、所得が高いこともあり、事業承継する時には既に別生計になっていることが多く、その場合には適用を受けることができなくなるの注意が必要です。
もう少し深掘りしますと、後継者と賃貸借契約を結び、貸し付けていた場合もあるかと思います。
その場合には、せめて上記50%の特例を受けたいところですが、「自分が自分に貸す」という状態となり、貸付を継続できなくなるため、やはり、50%の特例の方も受けることができなくなります。
まとめ
前回と今回を通じて、80%の評価減を解説してきました。
共通しているのは、過度な納税負担にならないようにという点です。
「居住用であれば」、「事業用であれば」と表面だけで適用を当てにしてしまうことは危険です。
被相続人が使っていたのか、同一生計親族なのか、継続していなければいけないのか、保有し続けなければならないのか、といういろいろな判定要因が入っていきます。
税額に大きな影響を及ぼす重要なポイントですので、信頼できる専門家に相談の上、慎重に準備をしていきましょう。