病院やクリニックの借入はいくらまでできるのか?〜償還期間〜

 

こんにちは。

「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。

「借入しようと思うんだけど、いくらまでなら借りても大丈夫ですか?」

これも、病院の理事長先生やクリニックの院長先生からよくいただくご相談です。

今の財務状態で、いくらまでなら返済できるのかという意味です。

もちろん、それにはキャッシュフロー計算書をチェックし、今後の資金繰り計画も考慮しなければなりません。

大きな設備投資や大きな退職金の支払いなどがどの程度想定されるのか、その辺の事情により、返済の元となる返済原資は変わってきます。

もっと、簡単にチェックする方法はないのでしょうか?

そこで、財務分析の出番となります。

Q52「病院やクリニックの設備投資の可否に使う〜固定長期適合率〜」では、設備投資の可否を簡単にチェックする方法として、「固定長期適合率」を解説しました。

今回も財務分析の「安全性」の中から、「償還期間」を解説していきます。

このスキルで、借入の範囲を簡単に試算することができます。

※この記事は次の人にオススメです。

現状で返済できる借入額を知っておきたい人

これから借入をしようとしている人

借入の適正範囲を知りたい人

償還期間

算式:長期借入金÷(税引前当期純利益×70%+減価償却費)

分子の長期借入金は、借入後(予定も含めて)の金額です。

分子は「1年あたりの返済原資となる金額」を意味します。

つまり、「現状の返済原資の場合、あと何年で返せるか」ということが分かります。

最低ラインは、10年以内です。10年を超えると借入過多の傾向です。

さらに、7年以内に収まっていれば、何か臨時に大きなお金が出ていくことになっても、比較的対応しやすくなります。

もう少し、分母を細かく見ていきましょう。

税引前当期純利益×70%

税引前当期純利益のうち、残るのは70%だけということです。出ていく30%は税金です。

減価償却費

減価償却費は会計上の費用です。広告費や通信費などのように、実際にお金として出ていく訳ではありません。

そのため、減価償却費はその分お金が病院内に残っていることになり、同時にそれは返済原資として見込めるわけです。

この①と②を合わせたものが、借入金の返済原資となります。

よく長期借入金を利益で割って、「あと○年かかるのか」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、税金や減価償却費を考慮しないと正しい年数は出ませんので、ご注意ください。

気をつけるべきポイント

気をつけるべきポイントが2つあります。

分母の返済原資全額を借入金の返済に充てた場合の年数になる

実務上、それは可能なのでしょうか?

臨時の修繕、大きな設備投資などがあり、医療機関は借入返済だけを最優先にできるわけではありません。

実際の返済期間は、こうしたことがある都度、予定の償還期間から延びていくため、この「償還期間」は現時点の利益から見た最短期間と考える必要があります。

分母の税引前当期純利益が翌期以降も続くとは限らない

あくまでも、今期の税引前当期純利益を基準に計算しています。

翌期以降、利益が減れば、それだけ償還期間は延びていきます。

逆に、利益が増えれば、償還期間は短くなっていきます。

まとめ

この財務分析の「償還期間」は、医療法人で一般病院だと約7年が平均となっています。

皆様の病院やクリニックではいかがでしょうか。

この「償還期間」は、キャッシュベースの返済原資から完済までの返済期間を簡単に求めることができます。

適正な借入期間を判断する上で、役に立ちますので使ってみてください。

最終決定は、冒頭で説明したキャッシュ・フロー計算書や、上記の注意点を考慮し、専門家に相談した上で、判断していただければと思います。