出資持分の評価を下げるための退職金支給(分掌変更)にご注意を!Q 181

 

こんにちは。

「医療経営 中村税理士事務所」の中村祐介です。

医療法人の出資持分が高額になっている先生は多いと思いますが、その高額になった持分の評価額を下げる方法として、大きなインパクトがあるのが「役員退職金」の支給です。

「でも辞めるわけにはいかないのよ」

という先生も多いと思います。

事業承継を見据え、持分を移したい反面、その評価額の高さからなかなか実行策がない先生もいらっしゃいます。

そこで役員退職金の支給を検討するわけですが、後継者もまだ育っておらず、現場も先生不在では心許なく、辞めるわけにはいかないという状況です。

そこでもう一歩踏み込んで、「分掌変更」という「完全に辞めてはいないけど、辞めた状態です・・・。」ということで、「退職金」を支給する方法です。

一般的な制度解説は以前もしていますし、ネット上にもたくさん情報がありますので、今回は違った角度からその「否認された場合のリスク」について解説します。

※この記事は次の先生にオススメです

・医療法人の出資持分対策として、役員退職金の支給を検討している先生

・持分の評価が高くなっている先生

医療法人の持分と分掌変更

もともと大企業前提ともいえる考え方になりますので、否認事例もかなりあります。

大企業の社長さんの場合、関連他社との関係もあり、ご自身の都合のみで退職できないこともあるからです。

もちろん、医療法人だからダメというものではありません。

ただし、メリットだけではなくて、その否認された時のリスクも想定しておく必要があります。

攻撃のみならず、守備も大事ということです。

(1)退職金支給とした場合のメリット(例:役員退職金1億円(在任20年)で税率25%と仮定)

①資金流出額 1億円(別途、節税分2,500万円)

②節税効果 1億円×25%=2,500万円

③所得税と住民税

・(1億円ー退職所得控除800万円)×1/2=4,600万円

・所得税15,904,000+住民税4,600,000=20,504,000円

(2)その退職金を否認された場合

①資金流出額 1億円+退職金否認1億円×25%=1億2,500万円

②節税効果2,500万円の否認

③所得税と住民税

・給与1億円(退職金否認で給与と認定)ー給与所得控除195万円=98,050,000円

・所得税39,326,500円+住民税9,805,000円=49,131,500円

否認されないために

こうして数字ベースで見ると、税額が全然違うことをご認識頂けると思います。

分掌変更で退職金を支給する場合には、しっかり理論付けしていかないとこうなってしまいます。

そのために、下記のような基準も示されています。(通達)

・常勤役員が非常勤役員になること

・重要な経営の意思決定をしていないこと

・給与が激変(50%以下)していること

こうした事実を持って、実質的に退職していることをアピールするわけですが、これらを守っていれば問題ないとも言い切れないところが難しいわけです。

実際の税務調査現場では、下記のような実態の確認が入ります。

①職員さんに退職しているかヒアリングをする(=職員さんは変わらず「理事長先生」と呼んでいないか)

②取引先にヒアリングする(=退職したことを知っているか)

③銀行との融資の交渉を行っていないか(以下⑤まで、本来は経営者が行うこととされる)

④他の役員の報酬を決定していないか

⑤高額医療機器の購入を決定していないか

ひとつでも当てはまるとダメということではないのですが、こうした点から総合的に判断されることになりますので、しっかりと事実認定を固めておく必要があります。

分掌変更による退職金支給は、気軽に使える対策ではありません。

メリットとデメリット(=リスク)をしっかり認識した上で、専門家のアドバイスのもと、医療法人の出資持分対策として実行するようにしましょう!